いま見つめる伝統、復興、大和心
内館牧子 脚本家

内館牧子「いま見つめる伝統、復興、大和心」

脚本家として「ひらり」「私の青空」など、数々の名作を生み出したほか、女性初の大相撲・日本相撲協会の横綱審議委員として、相撲のあるべき姿を世の中に問いかけ、注目を集めた内館牧子。圧力や批判に屈せず、自分の信念を貫き通す言動や姿が印象的だが、ムサビ入学当時は、自分とはまったく違う価値観をもった学友たちに圧倒されたという。

Profile

内館牧子(うちだて・まきこ)
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業。脚本家。武蔵野美術大学客員教授。テレビドラマ「ひらり」「都合のいい女」「毛利元就」「私の青空」などの脚本を手掛ける。2000年より女性初の日本相撲協会横綱審議委員を務め、2005年からは東北大学相撲部総監督を務めている。

震災で目覚めた日本人の雄々しき心

私は東京都の教育委員なのですが、委員会ではいつも、最近の若者やその親の規範意識の低さについて怒っていました。だから、ムサビでの私の授業も非常に厳しいですよ。ベルが鳴ると同時に教室の前後のドアを閉め、遅れた学生は入れないし、途中退席も絶対に許さない。授業中にペットボトルでジュースなんて飲んでいたらチョークが飛ぶわよ(笑い)。

ところが今回の地震の後、若い人たちの態度を見てびっくり。テレビを見ると、茶髪にピアスの男の子が幼い子どもの面倒を見ているし、料理なんて一度もしたことなさそうな女の子たちが一所懸命に炊き出しを手伝っている。ツイッターなどの情報を見ても、高齢者を労わるし、親や他人に感謝している。

そして、思い出したのが明治天皇の御製。

「しきしまの大和心のをゝしさは ことある時ぞあらわれにけり」です。

日本人の雄々しさというものは、何か大きな問題が起こったときに出てくるものだと詠まれた歌ですが、日本の若者の変化には、まさに「ことある時ぞ」に出てきた。私はこれまで、日本の伝統文化や礼節といったものが軽んじられる風潮に怒っていたのですが、実はしつけたり教えたりしなくても、それらは日本人のDNAとして、脈々と受け継がれていっているものなのかもしれませんね。このような国難のなかでも、日本人の美質が表面に現れたことは、復興に対してすごく希望がもてるような気がしました。

相撲界の建て直しに必要なこと

震災の復興とは比べられませんが、相撲界もぜひ復興してほしいものです。でも、伝統的な部分を軽く考えて、簡単に21世紀仕様にしないでほしいですね。そもそも相撲の世界というのは、非常に特殊な世界なんですから。単純にスポーツだけで成り立っているわけじゃないのよ。スポーツ以外にも神事、伝統文化、興行と全部で4つの要素がある。これまでは、この4つがかろうじてバランスをとりながら続いてきていたのですが、これがいかに難しいことだったのか、最近、みんなが気付き始めたわけです。考えてみればわかるように、興行と神事なんてまったくの別ものですからね。

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