話術に活かす私のデザイン
増山さやか ニッポン放送アナウンサー
Profile
- 増山さやか(ますやま・さやか)
- 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業。ニッポン放送アナウンサー。大学卒業後、同社に入社。主な出演番組に、『ようこそ長嶋茂雄です!』(2002年6月~2003年6月)『小泉総理 ラジオで語る』(2003年1月~2004年4月)『小倉智昭のラジオサーキット』(2006年10月~2012年3月)がある。現在、『上柳昌彦 ごごばん!』(平日午後1時~生放送)などに出演。
現在はニッポン放送午後の看板番組『上柳昌彦 ごごばん!』(平日午後1時~生放送)などに出演、過去にもさまざまな大物パーソナリティのアシスタントとして活躍する、ニッポン放送のアナウンサー、増山さやか。“喋り”をスムーズに展開し、リスナーを惹きつけていく話術の原点は、ムサビ時代に磨いたデザインセンスにあるという。
自分が自分らしくいられたムサビ時代
美大を目指したのは、普通の大学へ行くよりおもしろそうだなと思ったから。実際、ムサビ時代は楽しかったですね。本当に自由で、私には合っていたと思います。私はマイペースで、隣の芝が青く見えないタイプ。でも、就職するまでは自分がそういうタイプの人間だとは気付いていませんでした。ムサビは、周りもみんな個性豊かな人たちばかりで、自分が自分らしくいられる場所だったんです。だから、自分が他人に比べてマイペースな人間だということに気付いていませんでしたね。
個性豊かなのは、先生も同じ。本当にいろいろな先生がいらっしゃいましたが、とくに印象に残っているのは色彩心理学の千々岩英彰先生(現・名誉教授)です。心理面から色彩学を教えてくださったので、興味深くて楽しい授業でした。今でもインタビューに行くときにどんな色の服を着ようかなど、学んだことがさまざまなシーンで役立っています。ムサビ時代の授業に関して思い出すのは、1、2年生の頃の課題。とにかく日々、課題に追われていたことをよく覚えています。例えばローマ字のO(オー)のカーブを計算して美しく書けとか。黄金比や黄金分割など、数学的な理論に基づいてデザインするのですが、友達の家に集まり、ワイワイ楽しみながら難しい課題に取り組んでいました。
このほか、卒業制作で絵本を作ったのも楽しい思い出のひとつですね。四季の移り変わりの背景に動物を重ね、視覚的にキレイに見せる絵本で、子供だけでなく大人も楽しめるようなものをイメージして作りました。絵本は今でもクリスマスに作っています。娘へのプレゼント用で、去年は飼っている犬と娘がサンタさんに会えるのを楽しみに待つというお話。結局、最後まで会えないんですけどね(笑い)。だけど、プレゼントはもらえるのでハッピーエンドかな。
学ぶことの多かった、小泉元総理の話し方
- 『上柳昌彦 ごごばん!』(平日午後1時~生放送)
アナウンサーになったのは、ものを読むことが好きだったからですが、就職活動を始めた頃、まず最初に考えたのはムサビで学んできたようなことを仕事にするのはやめようということでした。お金を稼ぐためにデザインをすると、必ず締切に追われますよね。そうすると、義務感ですることになり、本来楽しいはずのものが辛いものに変わってしまうと思ったんです。
結果的にアナウンサーという選択は良かったと思っています。この仕事の魅力の1つはいろいろな業界の人に会えることですね。例えば私の場合、大物と呼ばれるような人とお仕事をする機会に恵まれていて、長嶋茂雄さんや小泉純一郎さんと番組でご一緒させていただきました。長嶋さんがどこのポジションだったのかということすらあやしい程、私は野球音痴だったのですが(笑い)。それでも優しく接していただきましたし、イメージ通りキュートで少年のような方で、楽しくお仕事させて頂きました。
一方、小泉さんのときは喋る内容がほとんど決まっていましたが、ひとつひとつの単語を断定的に話す小泉さん流の話し方がすごく印象に残っています。女性アナウンサーというのは、パーソナリティのアシスタントを担当することが多いのですが、そのとき、いかにタイミングよく相槌を打つか、話が逸れていったときにいかに自然に軌道修正するかといったことが大事になります。しかし、小泉さんの場合は会話がキャッチボールのように行き交うのではなく、単語を発した後に微妙な間があるため、相槌を打つタイミングもとても難しく苦労しました。それでも、発する言葉はひとつひとつが印象に残り、相手にも伝わりやすいんですね。その点は非常に勉強になりました。
目に見えないもののデザイン力の大切さ
ラジオ局のアナウンサーの仕事はインタビューをしたり、お喋りをしたりすることがメインですが、笑い方にしても相槌にしても、それぞれにセンスがあり個性が出ます。その意味で、喋りとデザインというものはすごく共通点が多いんですよ。例えばデザインの授業では、一色加えただけで平面構成がこんなに変わる、一本の線を加えただけでバランスがこんなに変化するといったことを実践的に学びます。その中で何をチョイスするかは、自分流の感覚であり、センスだったりするわけですが、これは喋りについても同じことが言えるんです。相槌のタイミング、声のトーンなど、どういう反応をするかで場の空気も、相手への伝わり方も全く違ったものになります。
デザインというものは目の前にある物体だけのものではないと思うんです。喋りのように、世の中には目に見えないデザインがたくさんあります。その中で大事なことはセンスであり、私にとってムサビとは、感性を磨いてくれた場所でした。美大は就職先の進路が限られるといったイメージをもたれる方もいると思いますが、私は逆だと思っています。感性は、どんな仕事にも必要なもの。だから、美大生の方が間口は広いと思っています。そもそもムサビを選ぶ学生は、そういうどこか感覚的なベースを持っていると思うので、非常に大きな可能性を秘めているんではないでしょうか。
もうひとつ、現役生へのアドバイスとして伝えたいことは、大学の施設は今のうちに存分に活用した方がよいということ。私は卒業してからの方が創作欲が旺盛になり、陶芸を習ったり絵を描いたりと、仕事のストレスを発散する機会としてさまざまな創作を行っています。だから、学内に材料がなんでも揃い、自由に使える学生をすごく羨ましく思うんですよ。ぜひ、学科の枠を超えて、いろいろなことにチャレンジしてほしいですね。