全国各地で活躍するマウジン2017 石岡市地域おこし協力隊
田中 楓(たなか・かえで) 写真:左から2人目
石岡市地域おこし協力隊 中心市街地担当
(2015年度 武蔵野美術大学造形学部建築学科 卒業)
井上 岳(いのうえ・がく) 写真:左から1人目
石岡市地域おこし協力隊 観光交流担当
(2013年度 武蔵野美術大学造形学部建築学科 卒業/2016年度大阪市立大学大学院 工学研究科都市系専攻前期博士課程修了)
大重 雄暉(おおしげ・ゆうき) 写真:右から1人目
石岡市地域おこし協力隊 農林業担当
(2013年度 武蔵野美術大学造形学部建築学科 卒業/2016年度大阪市立大学大学院 工学研究科都市系専攻前期博士課程修了)
瀧田 暁月(たきた・あき) 写真:右から2人目
石岡市地域おこし協力隊 移住定住担当
(2013年度 武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科 卒業)
Webサイト:https://www.facebook.com/ishiokoshi/
自分の街をもっと好きになってもらえるようにしていきたい
─みなさんが石岡市地域おこし協力隊になった経緯を教えてください。
もともとは4人とも学生時代にアートサイト八郷の運営をしたのが始まりです。
アートサイト八郷は、八郷・上青柳地区で7年間続くアートイベントで、2010年にムサビの建築学科生の竹の課題作品を地元の方々と共同で展示したことをきっかけに始まりました。
(※八郷町は2005年に合併され、現在の自治体は石岡市となっている)
自分たちが卒業し、アートサイトの開催年数が5年目となった2015 年、もともと始めるきっかけをつくった長尾重武教授が退任されたことで、アートサイトの存続について考える転機になりました。
関わっていた5~6年の間に自分たちが主体になって運営する体制になっていましたし、八郷はただ風景がいいというだけでなく、まだまだ可能性を感じる場所だったので、それを100%発揮させないまま終わらせたくないと思いました。
そこで今後アートサイト八郷を存続させ、質を上げていくために自分たちで「ヤサトジム」という団体を結成しました。
そして地域の人に小冊子を配りながら、自分たちはもっとこの地に根ざした活動がしたいと説明していくうちに、人づてに話が伝わって自治体から石岡市地域おこし協力隊募集のお話をいただきました。
アートサイト八郷2017の会場風景
─八郷(石岡市)のどんな部分に惹かれたのでしょうか?
もちろんメンバーそれぞれで異なりますが、茅葺屋根の家でおばあちゃんが一人で住んでいたり、イノシシを乗せた軽トラックが走っていたり、5時に太陽が沈んだりという地元の人からすると当たり前の光景が、都市育ちの自分たちにとってはインパクトがあり魅力的でした。
蛇口をひねれば当たり前のように水が出たり、部屋にはエアコンが効いていたりという生活をしてきたので、ここにいると「生きている」という実感が東京にいるよりも濃いと感じます。
あと、一から手でものをつくるのが好きでしたし、山を背景にして屋外展示するなどムサビではできないような展示ができたことも面白かったです。
はじめのうちはお客さん気分でいましたが、長く地域の人と付き合って話すうちにだんだんと色々な問題意識が芽生えていきました。
そうやって関わってきた5~6年の間に、自分たちがいることで地域に還元できることがあるという小さな実感を重ねていったという感じです。
─震災後の日本でこういった活動を行うことについてどのように捉えていますか?
震災後に地方へ移住を希望する若者と、労働人口を増やしたい地方側とのニーズのマッチングという大きな流れの一環として私たち協力隊もあるのかなという気はしています。
デザインや建築は社会の流れに関係しているものですし、そういった意味で間接的に震災の影響を受けていると思います。
震災後、地方で活躍しているデザイナーや建築家がメディアや書籍でも紹介され、地方の面白さがピックアップされてきました。
かっこいい建築やデザインだけではなく、人とのつながりに重点が置かれてきている傾向を感じますし、社会制度も含めた転換期のような気もしています。
サマーフェスタ2017にて、石岡市内に現存する看板建築をモチーフにオリジナルトートバッグをつくれるブースを設置した。
─実際に地域おこし協力隊の活動を始めてみてどのように感じますか?
行政との関わりということで、関わるプロジェクトの規模は大きくなりました。
ただ、アイディアを実現するのに時間もかかると感じます。
市がこちらに求めるものとこちら側の認識が異なる場合もあり、抜本的に問題を変えようとするとまだクリアするべき課題もあると感じています。
地元の人たちは魅力を外に伝えるのが苦手なのと仰っていて、そこをデザインに求められていると思います。
もともとデザインや建築をやりたいという気持ちをメンバーみんなが持っているので、そこは自分たちの強みだと思っています。
─今後の展望を教えてください。
地元の若い人が外に出て行ってしまうという流れがどうしてもあるので、自分の街をもっと好きになってもらえるように徐々にしていきたいです。
地域おこし協力隊の任期は最大で3年なので、満期が来たあとは起業するなどヤサトジムとしての活動を軸にしていきたいと思っています。
今は起業に向けた準備もしつつ、日々できることを楽しみながらも真剣に取り組んでいきたいです。
地方が衰退していって都市部に人口が流出していくのは日本の抱える大きな課題の一つです。地域が変わるのには時間がかかると思いますが、そういう大きな流れの中で、自分たちができることを考えていきたいです。
編集後記
都市部における当たり前と、地方における当たり前、異なる文脈を持った人同士が出会うことでお互いの違いも良さもはっきりと認識できたのでは、と4名は語る。
地方から都市部への人口流出という日本全体での課題に対し、アートで何かできないかといった動きが全国的に見られるなか、協力隊の4名は性急に答えを出そうとするのではなく地域に腰を据え、じっくり時間をかけて活動してきた。
自分たちが生きていることをより濃く感じられる場所で、知識だけでは得られない素手の実感を一つ一つ積み重ねながら手探りで歩もうとする4名の姿勢が印象的だった。
ライタープロフィール
百野 ケンスケ
2005年度 武蔵野美術大学造形学部 映像学科卒業
フリー映像ディレクター、カメラマン