『人の営み』は光と影の中に
荒木珠奈 銅版画/インスタレーション作家

荒木珠奈「『人の営み』は光と影の中に」

さまざまな素材を駆使し、版画や立体、インスタレーションなど、多彩な技法で独自の表現を展開するアーティスト・荒木珠奈。作品は、短大卒業後に留学したメキシコの文化的影響を受けているというが、素材や技法にこだわらない自由な表現も魅力のひとつになっている。そんな荒木もムサビ時代について、自由に活動することができたと振り返る。

Profile

荒木珠奈(あらき・たまな)
武蔵野美術大学短期大学部専攻科修了、武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。銅版画/インスタレーション作家。UNAM自治州立大学美術科(メキシコ)に外国人聴講生として留学。主な展覧会として、1999年「うち」、2006年「虹蛇」、2006年「MOTコレクション特集展示:みんなの中にいる私」、2008年「泉」などがある。今年度から、日本大学芸術学部非常勤講師を務める。

メキシコで感じたあらゆることが、作品を生み出す原動力

私はムサビの短大専攻科を卒業してからメキシコへ留学し、その後ムサビに3年次から編入しました。短大を卒業したら必ず海外へ行こうと思っていて、そのころ憧れていたのはフランス。パリに住んでパリジェンヌになるんだって思ってた(笑い)。だから短大のとき、フランス政府の国費留学生の試験を受けたものの不合格。それでフランス熱が一気に冷めちゃって……。

「壁画紙版画ワークショップ」
メキシコ、レニャテーロス工
房/2010

それでも海外留学の夢は捨てきれず、いろいろ探しているうちに中南米に興味を持つようになったんです。理由はいろいろあったんですが、例えば岡本太郎さんの本を読んだらメキシコを大絶賛していたり、現在ムサビの教授で探検家でもあり医師でもある関野吉晴先生の講演会がムサビで催され、それを聞きに行ったとき、南米のことが紹介されていたり。そのため、なんとなく中南米に対する憧れが強くなってきたので、試しに観光でメキシコに行ってみたんです。そうしたらすごく気に入っちゃって。結局、22歳から24歳までの2年4か月間、メキシコに留学しました。

私はこれまで、「人の営み」というものをテーマに作品を作ってきました。例えば旅、生活、移住、さらに人の動きに象徴される道とか、動物や山から感じる不思議な力とか。よく使うモチーフは船、家、ハシゴ、手形、イス、ヘビなどですね。でも、人の形は作りません。そうしてしまうと、顔や性別などがイメージとしてハッキリしてしまいますから。表現しているものは、メキシコで見たことや感じたことにすごく影響されていると思います。メキシコは国としてかなり複雑な歴史をもっていて、そこに住む人もすごく明るい部分とすごく暗い部分の、両方をもっています。さらに、夜は暗く、昼は強烈な太陽ですごく明るい。これは、象徴的な言い方ですけど、「太陽の光が強い分、影が濃い」と感じています。私はこういう風土や文化に大きな影響をうけ、作風にもそれが現れていると思っています。

人間のすごさが、ゲスト参加型の作品に現れる

「うち」Gallery Jin、東
京、1999

私の作品の中には、お客様など不特定多数の人の手を借りてはじめて完成するような、ゲスト参加型の作品があります。例えば団地をテーマに制作した「うち」。この作品はまず、最初に白いベニヤで作った箱を100個ほど作成。そして扉を作って南京錠を取り付け、鍵には部屋番号のようにナンバーを刻印、その鍵を招待状に入れて100名の方へ送りました。そして、来場されたお客様が部屋の扉を開けると光がそこからあふれ、明かりがついた部屋と真っ暗な部屋とのコントラストで夜の団地をイメージさせるものを作りました。結局、展覧期間は6日間ほどで、6割くらいの部屋が開き、開いていくプロセスも含め「うち」という作品となりました。

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