落語とデザインの幸せな関係
林家たい平 落語家

林家たい平「落語とデザインの幸せな関係」

日本テレビ「笑点」大喜利に、病気療養のために休演していた師匠・林家こん平に代わって出演して以来、再若年メンバーとして活躍する林家たい平。
大学時代も落語研究会のメンバーとして、「遊々亭迷々丸」の高座名で活動していた。
しかし、落語研究会に所属したのは、落語が好きだったからではないという。

Profile

林家たい平(はやしや・たいへい)
武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。落語家。林家こん平に弟子入り後、平成19年度芸術選奨文部科学大臣新人賞など数多くの賞を受賞。人気演芸番組『笑点』(日本テレビ系列)の大喜利メンバーとしてのテレビ出演をはじめ、全国での落語会、ラジオ出演など多方面で活躍中。昨年度から武蔵野美術大学客員教授に就任。

落語より舞台づくりを楽しんだ落研時代

入学初日、フラフラしながらサークルボックスに入ってみると、落語研究会と書かれた暖簾がありました。「ハテ、美術大学に落語?」と不思議に思いながら部屋を覗くと、人のよさそうな先輩が3、4人。何か相談事をしているような様子でした。そのまま興味本位に見ていると、先輩たちと目が合い「勧誘するつもりはないから、よかったら一緒にコタツに入りなよ」と誘われたんです。それで、話をよく聞くと新入部員が入らなくて廃部寸前だとか。先輩たちもそのつもりだったようですが、「だったら僕が入れば存続できるのでは?」ということになり……。

これが武蔵野美術大学落語研究会「遊々亭迷々丸(後の林家たい平)」誕生の瞬間であり、すべてはここから始まりました。だから、落語に興味があって入部したわけではありません。先輩たちの温かい人柄やその空気感みたいなものが、田舎から出てきたばかりの僕にとって、非常に居心地のよい空間に思えたからでした。こんな調子ですから、落語についても正面から向き合ったものではありません。斜に見ながら自分たち流の笑いを作るような感じ。例えば『笑いは格闘技だ』をスローガンに、お笑いタッグマッチを主催したり。それでプロレスのリングのような舞台を作ったのですが、美大生ですから背景の絵も観客の顔まで一つひとつ描かないと気がすまない。結局、一週間かけてすごく本格的なものを作りました。部員たちも落語よりこっちの方を楽しんでいるようでしたね。

デザインは人を幸せにするためにある

元々、僕が美大を志望したのは、美術の先生になるためでした。だから、まさか自分が落語家になり、子どもの頃から見ていた人気長寿番組「笑点」に出られるようになるとは、想像もしていませんでした。そんな僕が落語家を目指すようになったのは、落研の活動で落語に目覚めたからではありません。実は大学の授業と深い関わりがあるんです。

大学の授業で最初に教わったのは「デザインは人を幸せにするためにある」という言葉でした。大学のデザイン科の授業というと、もっと華やかでファッショナブルなものを想像していましたから、このときはすごく意外に思ったのを覚えています。その後も、この言葉はずっと脳裏にあったのですが、あるとき「落語=人を幸せにする」と気付いた瞬間があったんです。

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