自分の居場所を自分で作りたい
柳澤知明 インタラクションデザイナー

柳澤知明「自分の居場所を自分で作りたい」

幅が広いという意味では、授業だけでなく学生や先生も幅が広かったですね。例えば、僕のように数学で受験した学生は理数系に強い一方、絵で受験した学生はすごく絵が上手い。ほかにもプログラミングが得意な学生がいたりして、それぞれにバックグラウンドが違うから、すごく刺激的な環境だったと思います。

ムサビを卒業した後は、渡英して英国王立芸術大学(RCA)のデザイン・インタラクション学科で学びました。ここで学んだことはテクノロジーなど科学全般と関わるデザインの役割、またそれと人との関わり。新しいものでいえば、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーなど、何かの目的で開発・発展していったテクノロジーが、当初の目的以外で使われるとどうなるかということについて研究していました。

例えば、クローンで肌を再生するという技術。この技術は、事故や病気の人を助けるための再生医療の分野で使われるために開発されたもの。もし、これがコストダウンされ、世の中に当たり前に浸透したらどうなるのか。プロダクトの素材として使われるかもしれない。また、その肌は自分のものなのか、家族のものなのか、それによってプロダクトとどういう関係性が生まれるのか、それが良いのか悪いのか、時には倫理観も変えてしまう。そういうものをデザインで示すことによって、人に気づき、議論の種を与えるし、また純粋にテクノロジーの新しい可能性も見せることができると思っています。僕にとってデジタルもアナログもひとつの素材で、そこに生まれるインタラクションは対象なんです。

いろいろな創作活動が経験できた2010年

現在、所属している4nchor5 la6(アンカーズラボ)は、作家の名前でも会社の名前でもありません。2008年に設立された「場所」の名前です。真鍋大度さんと石橋素さんを中心に、ここには国内外からアーティストやデザイナーなどさまざまな人が集まります。モノづくりにおいて人の次に必要不可欠な要素が、「場所」であり、4nchor5 la6はチームでも個人でも戦えるアンカー達が集い、何かを生み出し続けるための場所なんです。

僕がここにいるのは、帰国してから真鍋大度さんの講義を聞いたのがきっかけでした。それが縁で、ラボが設立されることになったとき制作場所をそこに移させていただきました。アンカーズラボは2008年にできたばかりですが、この3年間、広告をはじめ、イベントや展覧会といったクライアントワークだけではなく、自主的なプロジェクトも多数行なっています。そんな中でも昨年はいろいろな経験をさせていただき、将来振り返っても印象に残る年になったと思っています。

そのなかの1つ、「NIKE MUSIC SHOE/NIKE JAPAN」がカンヌ国際広告祭フィルム・クラフト部門銀賞、フィルム部門銅賞を受賞しました。この作品は広告代理店から相談を受けて制作した仕事で、靴をひねったり叩いたりして音を出すアイデア自体は広告代理店が考えたものです。アンカーズラボはそのアイデアを実現するために創作に携わりました。大度さんがサウンドプログラミングを担当し、僕はハードウェアを担当しました。このときは1回目のプロトタイプを3日で作らないといけないなど、制作時間が少なくて大変でしたが、いい経験をさせていただきました。

このNIKEの仕事はエンジニアとして携わりましたが、僕はデザイナーでもあり、創作分野の種類や、その仕事に対する携わり方もさまざまです。そのため、よく「結局、何を仕事にしている人ですか?」と聞かれるのですが、なんて答えればいいのかよくわからないんです(笑い)。要するにカテゴライズされていないんですよね。だからこそ、僕はこれを続けていくことが大事だと思っています。自分の居場所となるカテゴリーを作るために、自分がおもしろいと思える場所で創作活動を続けていくことで、後に続く人達にとっても役に立つと信じています。

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