『画文』という名のライフワーク
大田垣晴子 画文家

大田垣晴子「『画文』という名のライフワーク」

『妊娠日記』は、自分の体調と胎児の成長の記録を描いたイラスト日記をそのまま掲載した本です。これは、もともと出版するために描いていたものではなかったのですが、たまたま編集者に見せたら「同世代の女性が読んだらためになりますよ」と言われ、出版が決定。さらにデザイナーさんに「このまま載せたほうがリアルでいいですよ」と言われ、ほとんど手を加えず載せています。だから、かなりリアルなんですけど、自分で読んでも客観的だと思うんですよ。「赤ちゃんが動いてうれしい!」なんてことは一切描いてないですからね(笑い)。

この本を出版してからは、よく育児日記はつけていますかと聞かれますが、現在は描いていません。今はただ子どもが可愛くて、もし描いてしまったら単なる親ばか日記になってしまいますから。もう少し時間が経って、子どものことを冷静に見られるようになったら考えようかなと思っています。

なれるかどうかではなく、やれるかどうか

焼酎ぐるぐる
©太田垣晴子/ワニブックス

実は、染織家志望の気持ちが薄れてから、ムサビを退学することを考えたことがありました。そのことで悩んでいるとき、主任教授の小池一子先生(現名誉教授)に「画文でレポートすることが楽しくなってしまったので、大学を辞めたい」と相談したんです。すると、先生が「うちの学科でやればいいじゃない」と言ってくれたんです。それで気持ちが楽になって、留年しないように課題をクリアしておけば、後は何をやってもいいというお墨付きをもらったと解釈しました(笑い)。

それ以来、時間があると雑誌の中で見つけた古い町並みや職人さんたちに会いに、いろいろな所へ行きましたね。どこへ行っても、みんな優しいんですよ。地方で「レポートを書くために来ました!」なんて言うと、飲み屋のおじさんとかもすごく優しいんです。卒業制作も全国の美術館巡りをして、この画文の手法によるレポートを提出しました。50か所くらいの美術館に行ったと思います。

大学生には、自由な時間があるのだから、好きなことをどんどんやってほしいですね。私がムサビで特別講師をやったとき、「どうしたらイラストレーターになれますか」と聞いてきた学生がいました。なりたいならどんどん描けばいいんですよ。「なれるかどうかではなく、やれるかどうか」なんです。まずは描き続けることが大事で、でないと誰も認めてくれないですからね。だから、イラストレーターになりたい学生に伝えたいことは一つだけ。「ひたすら描き続けてほしい」ということ。

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