どうすればお金になるかを考える
西原理恵子 漫画家
結局、予備校には一年通い、絶対に無理だと思っていたムサビに合格。念願の美大生になることができました。ところがムサビに入ると、教室内には各予備校のトップ5くらいの実力をもった才能あふれる学生がズラリ。私はまるで、世間知らずの田舎の女の子が女優になりたいと言って、ハリウッドに行っちゃったようなもの。そうなると、アジア人のおばちゃんの役なら誰にも負けない、差別化して生きていくしかない。そう思って一層、営業に励み、そして最終的に私を救ってくれたのがエロ本業界でした。
エロ本業界では、私が美大の女子大生だという物珍しさもあったでしょうが、大変可愛がっていただきました。そして、飛びぬけた絵の才能をもたない私がこの世界で生きていくためのヒントを教えてくれたのも、この業界です。例えば、私は差別化のため、作家の文章にツッコミを入れました。そのため、肝心の絵はおまけ程度でほとんど文字だらけ。それでも編集者やライターは喜んでくださり、「君はカットマンの才能があるよ」と言っていただけた。これは、私が生まれて初めてほめられた経験でした。気が付くと大学3年のときには、目標であった月収30万円を超える収入を得るようになっていました。
大学で学んだことは客観性
この世界で生きていくための道筋が見えてきたとき、私はムサビを退学することを考えました。ところが、これに母が猛反対。「それだけはやめて。授業料はしっかり払う。これ以上、私を悲しませないで」と泣きつく母に根負け、退学を思いとどまり卒業に至りました。
ムサビで私が学んだ最大の収穫は客観性。あれほど才能にあふれた人材が集まると、嫌でも自分のポジションというものを認識させられます。このまま普通にやっていても、決して浮かばれることはないとハッキリ分かりました。
プライドをもたなかったので、どんな仕事も受けました。与えられた仕事を一所懸命にこなした結果、ほめてもらえる。そして次の仕事のオファーがくる。私はただ、ほめてもらった方向に進んだだけ。結果的に大学3年のときには小学館から「ちくろ幼稚園」(週刊ヤングサンデー)でデビューが決定。大学4年のときにはさまざまな連載をもっていました。そのため、私はエロ本上がりのマンガ家であるということに誇りをもっています。
私が若い学生の方へ言いたいのは、「どうすれば夢がかなうかではなく、どうすればお金になるか、それを考えれば次の一手が思いつく」ということ。どうすれば夢がかなうかなんて考えていたら、きっと行き詰ってしまう。だから余計なプライドをもつことよりも、自分の立ち位置を冷静に認識し、その中でどうすれば生計を立てていけるか考えるべきだと思います。