常識を超え映画美術の本質に出会う
種田陽平 美術監督

種田陽平「常識を超え映画美術の本質に出会う」

「ステキな金縛り」
脚本と監督 三谷幸喜
10月29日(土)全国公開
©2011フジテレビ 東宝

共同作業の楽しさもこの仕事の魅力ですね。ムサビ時代、わたしは油絵学科だったので個人作業が多かったのですが、それでも学園祭や映画研究会での活動を通して、集団でひとつのことをやり遂げる喜びみたいなものを体験しました。その時と同じ喜びが映画美術の世界にもあります。また、美術監督というのは、映画監督とコミュニケーションをとる機会が多く、それが楽しい。アシスタントの頃から映画監督といろいろな話をし、自分のアイデアが採用されたりするうちに、やりがいに変わっていきました。

とにかく映画監督と一緒に仕事すること自体が楽しいんです。だから今後も、いろいろな映画監督と一緒に仕事をしたいと思っています。最近、日本では三谷幸喜監督との映画最新作『ステキな金縛り』(2011年10月29日公開予定)や舞台『ベッジ・バードン』(2011年7月31日まで世田谷パブリックシアターにて上演)の美術監督をしました。海外では、チャン・イー・モウ監督の最新作の仕事で、しばらく中国に滞在しました。国が変われば映画産業が置かれた状況も変わり、また同じ国でも、作品一本一本を取り巻く状況も違うものですが、監督と映画にかかわる本質的な会話を重ね映画のための世界をスタッフ全員でつくりあげる歓びは、今のところ何ものにも代え難いものがあります。

ムサビ時代は先輩にも先生にもタメ口だった

わたしたちの仕事では、空間のもたらす作用というものをより専門的に考えなくてはならないので、映画監督に提案することがすごく多いんです。例えば喫茶店のシーンがあったとしたら、ここは洋風の喫茶店ではなく和風の甘味喫茶の方がいいとか。だから、映画監督の指示を待っているだけでは仕事になりません。監督によっては何も指示しない人だっていますからね。だから、映画監督とどんどん意見を交換し、攻め込んでいって提案し、いかに監督に刺激を与えられるかが大切になるわけです。

その意味では、ムサビで学んだことのひとつ、先輩や先生とタメ口で話をしていたことが役立っているかもしれません(笑い)。監督とのコミュニケーションのなかで、本質について語り合うとき、意見がぶつかることがあるわけですよ。そんなときに遠慮していたら、何も提案できないでしょう。わたしの場合はムサビ時代から先輩を君づけで呼んでいたし、先生にもタメ口だった。だから、映画美術の世界に入ったときも、若いくせに「ここはこうした方がいい」とか言っていました。「こんなセリフなんていらない」とかも(笑い)。おかげで生意気だとか言われて、損したこともありましたよ。けれど、映画監督や先輩には懐の深い人もいて、若造が考えたことを受け入れてくれることも多々ありました。

わたしはムサビ時代から、それでいいと思っていたんですよね。だって、わたしたちがやっているのは美術の世界ですから。常識的な段取りを飛び越えて、ズバッと本質的な話をしてもいいんじゃないかと思っていたわけです。今の美大生には礼儀正しい人が多いと思うのですが、表層にこだわらず、ものごとの本質を考え語り合うことの方が大切ではないでしょうか。

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