龍馬に現代のリアリティーを
山口類児 NHKチーフ・ディレクター

山口類児「龍馬に現代のリアリティーを」

NHKの大河ドラマの中でも近年の大ヒット作として多くの話題を集めた「篤姫」「龍馬伝」でプロダクションデザイナーとして、舞台美術に現代の息吹を与えた。2012年放送予定の「平清盛」の美術監督を務め、時代劇の美術の作り手として確固たる地位を築きつつあるが、当初は時代劇に興味をあまり持っていなかったという。

Profile

山口類児(やまぐち・るいじ)
武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業。同大学院造形研究科修士課程空間演出デザインコース修士課程修了。NHKに入局、デザインセンター映像デザイン部チーフディレクター、プロダクションデザイナーを務める。主な作品に『私の青空』(2000年)、『ハゲタカ』(2007年)、『篤姫』(2008年)、『龍馬伝』(2010年)などがある。2012年には『平清盛』が放送予定。

ライブ感を重視した、現代を生きる我らのための龍馬伝

私はムサビ時代、空間演出デザイン学科に在籍し、主に歌舞伎やオペラなど劇空間のセットデザインについて学びました。しかし、劇空間のセットデザインという仕事のパイは決して大きくはありません。具体的にどのような働き場所があるのかよく分からず、自分の将来像について何もイメージできずにいました。ちょうどそんなとき、NHKで報道フロアの美術のアルバイトをする機会があり、そのときNHKなら紅白歌合戦のようなステージ、報道、ドラマなど、自分でも活躍できる場所があるのではないかと思ったのが、NHKに入局を決めた理由です。

入局後は、情報番組や報道など一通りの現場を経験し、30代半ば頃からドラマに軸足を置いて仕事をしたいと思うようになりました。近年、『篤姫』、『龍馬伝』、2012年放送予定の『平清盛』と、大河ドラマに三作、一年おきに携わっています。しかし、以前は時代劇に興味をあまり持っていませんでした。時代劇というのは様式的なことで成り立っている部分があり、例えば道場ならここに神棚があり師範はここに座るというような型がありますよね。それがなんとなく気乗りしない理由になっていたのですが、龍馬伝では、この型にこだわらず、新しいことにチャレンジすることができました。

龍馬伝ではまず、演出担当の大友啓史さんから「すぐそこにいる龍馬」をテーマに、ライブ感を重視して従来の大河ドラマとは違った世界観を作りたいという相談をうけました。幕末はそもそも、それほど大昔の話ではないので、比較的、写真や文献も豊富に残っています。だから、決められた様式美にこだわらず、ある程度の時代考証に沿ったうえで、息遣いが聞こえてくるような実在感を重視して制作することができました。例えば、龍馬が通った千葉道場。体育館でバスケットボールを楽しむ10代の若者たちがロッカールームで談笑しているシーンをイメージして、井戸の周りで汗を流しながら談笑できる場所を設けるなど、現代を生きる私たちが見ても違和感がないように、随所に仕掛けを施しました。

空間の気配、匂いを再現する美術手法

従来の型から大きくはみ出した演出という意味では、龍馬の親友、武市半平太が投獄されていた牢屋のセットもその一例です。武市自らが描いた牢屋のスケッチと日記が現存していたのですが、それを見せていただくと、映画『羊たちの沈黙』で描かれているような三面格子になっていたんです。これを参考にイメージを膨らませて作ったので、従来の時代劇に出てくるものとはずいぶん雰囲気が違ったものができたと思っています。

セットを作る前には、いろいろな場所を訪れ、取材をしています。龍馬伝のときも高知や京都、萩、長崎、下関といった龍馬ゆかりの地を訪ねました。このように取材で各地を巡ることは美術の仕事の楽しみのひとつであり、時代劇に限らず現代劇でも同じようなアプローチで仕事をしています。例えば、龍馬伝と同じ大友さんが演出した作品で、テレビドラマ『ハゲタカ』の美術を担当したときもそうでした。

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