模型の曲面に人生を垣間見た
横山宏 イラストレーター・モデラ―
実際の制作では、集めたパーツを再構成して有機的なラインを作り出すのですが、既存のアニメーションから立体物を作る場合などに比べ、作業が少し楽になります。なぜなら、既存のもの、例えばロボットアニメのプラモデルを作るとなると、模型制作者は平面で描かれたロボットの絵を見ながら立体化します。しかし、このとき平面では描かれてない部分も立体として再現する必要が出てくる。そこを想像力や経験則で継ぎ足していかなくてはなりません。これに対しぼくの場合は、アニメーションの都合と違って設定原画などに関係なく作ることができます。一度立体で作ったらそれをもとに平面でイラストを制作し、それをまた立体化するというように、2Dと3Dの作業を繰り返して作り上げていけるのです。
ここ数年ではムサビの学生にも、この作業の繰り返しを勧めています。例えば人の肖像画を描くとき、「その人の顔を一度粘土で作り、それからもう一度絵を描いてごらん」と言います。すると、手が感覚として覚えている立体の情報が多くなるため、いきなり描いたときの絵よりも確実にレベルの高い作品になっているはずです。そのため、「絵」を描く人は「立体」の勉強をした方がいいし、逆に「立体」を作っている人は「絵」の勉強をした方がよいと思っています。もし、大学に立体平面学科といった学科があれば、ぼくはかなりスキルの高い学生を養成できると思いますよ。
生きる、をつくる。つくる、を生きる。
子どもの頃、円谷プロの作品などを見ながら、未来のメカは格好いいななんて思っていました。怪獣をデザインされた成田亨さんもムサビ出身。どうもムサビ出身者というのは、芸術の本流だけでなくて、外れた所でもっと活躍する人が多い。その意味で学生時代、先生がよく「何ができるかじゃなくて、何がやりたいかだ」とおっしゃっていた意味がようやく分かるようになってきました。要するに、何がやりたいか大学時代に見つけて、それに邁進すればいいのだと思います。
自分が本当にやりたいことは何かを見つけることは難しい。しかし、何が好きなのか考えればいいのです。例えば、後輩で映画の美術監督として有名な種田陽平氏、彼が映画のセットなどの美術の世界に入ったきっかけは、在学中から自分が参加していた寺山修二さんの映画の仕事で、画面に出てくるための絵の手伝いの出来る後輩として現場に呼んだところからでした。すべての絵はやはりムサビ卒業の合田佐和子女史がディレクションされていました。初めは自分と同級生の二人ではじめてたお手伝いでしたが、何せ人手が欲しいのが現場。後輩の映画研究会に絵の上手い子がいるというので種田陽平氏に声をかけたのが、きっかけでした。
このように、当時ムサビには映画やドラマの舞台制作など、自分たちのスキルを生かせる仕事が多種多彩に存在していましたから、その中から自分が本当に好きなことを発見することもできるのでしょう。また、同じ方向を目指す仲間がいたということが何より大きいと思います。
人間は好きなことを始めると、ドーパミンが出るので、時間を忘れて熱中し、ますます上達します。それこそ、ムサビのキャッチフレーズ「生きる、をつくる。つくる、を生きる。」ですね。ぼくはそう解釈しています。せっかく、そういうプロフェッショナルを養成する大学にいるのですから、思う存分に楽しめばいいのではないでしょうか。