ネオ漫画が切り取る普遍の世界
横山裕一 漫画家
もうひとつ、私の作品の特徴としては、時間に切れ目がないことですね。コマごとの間はだいたい2秒ほど。例えば2人の人間が歩いていたとしたら、最初のコマでは前を歩いている人間を描き、次のコマでは前の人間が通り過ぎて後ろを歩いている人間に焦点を当てるといった感じ。僕にとってはこれが正しい漫画のあり方だと思っています。ところが他の漫画だと、突然翌朝になったりしますよね。僕の価値観では、時間を早送りして描くことは手抜き作業のようで、あり得ないことなんです。
うらやましい”と思われる作品を通して幸せになる
漫画のほか、昨年は川崎市市民ミュージアムで個展を開くことができました。美術館で個展を開くというのは夢だったので、すごくうれしかったですね。実はその個展にムサビの学生たちが来てくれたことが縁で、その学生たちに頼まれて、ムサビの彫刻学科の授業をしたことがあります。その後も交流は続いていて、学生がうちに遊びに来たりするのですが、最近は不況のためか彼らの口から将来の不安をよく聞きます。
Yuichi Yokoyama
[ Color Engineering 204 ]
Acrylic on canvas
727 × 530 mm
2010
私も学生時代に不安を感じることもありましたが、イラストで食べていくと決めてからずいぶんと営業をして、その結果仕事を頂けるようになりました。年間100社くらいの出版社に営業していたのですが、私はこの営業が大好きで、電話でアポをとってから先方へ伺い、自分の絵の魅力をとことん伝え、スッキリして帰ってくるんですよ。そのとき作品を置いて帰ってくるのですが、すぐに仕事へ結びつくケースはほとんどありませんでした。しかし、その時依頼がもらえなくても、その会社の中に私のイラストや漫画を気に入ってくれた方がいて、その方が別の会社へ転職してから仕事のオファーを出してくれたり、独立してから電話をかけてきてくれたりと、何らかの形で営業が仕事につながっていきました。
私は、人に“うらやましい”と思われるような作品を作りたいと思っています。私にとっても、こんな作品を作れたらどれだけ幸せだろうなと思うような作品を生み出す作家がいます。でも、そういう人は憧れの対象であると同時に憎しみの対象でもあります。なぜかというと、才能に嫉妬してしまうから。例えば、憧れの作家の顔写真を雑誌などで見つけて、「嫌そうな奴だな」なんて想像するわけですよ。でもその後、展覧会で会ったりすると、すごくいい方だったりすることがほとんど(笑い)。学生にも、人に“うらやましい”と思われるような作品を作ることを目標にしてほしいですね。それが、将来にもつながっていくことですから。