株式会社 キヤノン
ゼロから創る、ものづくりの喜び
信乃亨(工芸工業デザイン学科卒業) × 高野盛司郎 (工芸工業デザイン学科卒業)

――キヤノンに入社してから、そういうワクワクするような思い出深い仕事はありましたか?

高野さんがデザインを担当したEOS M

高野 最近の仕事ではEOS Mですね。このブランドが立ち上がる瞬間に立ち会えたのは、非常にいい経験になりました。通常はEOSでもIXYでもそうですが、脈々と引き継がれていった伝統のあるブランドを守りつつ、前機種に新しさをプラスした後継種をデザインするのですが、これは全く新しいものを作ったという意味で思い出深い製品です。

信乃 通常、社内で複数のデザイナーが案を出し合うのですが、これは高野がそのコンペで勝ち取った機種なんです。そういう意味では、最初から自分自身でデザインし、ブランドの立ち上げまですべて携わった製品だから、とくに思い出深いでしょうね。

――コンペでは、どこを評価されたのですか?

高野 コンペで一番のポイントだと思っていたのは、シャッターボタン付近の斜めにカットされた部分です。EOSの名前が付くことは決まっていたので、EOSのこだわりのようなものを具現化したいと考えていました。また、レンズも私が担当していたので、レンズの事業部に見てもらうため本体に取り付けて持って行ったのですが、そのときに見ていただいた課長にレンズよりも本体の方をすごく褒めていただいたことが自信につながりました。

信乃 操作性にこだわったのが良かったですね。コンパクトなカメラですがグリップをしっかり感じるような造りになっているので持ちやすく、EOSらしさがしっかり備わっています。

高野 持っていただければ分かると思いますが、指のポジションが自然に感じるはずなんです。コンパクトなカメラでありながら、持ったときの自然な手の形でシャッターを押せるということが強みだと思っています。

――信乃さんが初めて手掛けたのはフロッピーカメラのQ-PICだそうですが、これは全く新しい発想から生まれた商品ですよね?

信乃さんが一番思い出深いと語るQ-PIC

信乃 そうですね。私にとって一番思い出深いのがこのQ-PICなんです。これは入社2年目で担当しまして、上司に「次世代のメディアとなるフロッピーを使ったカメラを何か考えてみなさい」と言われて手がけました。それまで世の中に全く存在しないものですから、すごく勉強になりましたし、おもしろかったですね。このときは、自分で考えた全く新しい形をモックアップにしてプレゼンテーションしたところ、一人の設計者が「これはすごくいい」と言ってくださったんですよ。そして、すぐに中身の図面を引いてくださり、それが開発の始まりになりました。実はそのときの設計者が今の本部長であり、その意味でも思い出深い製品です。

――デザイン目線で見たキヤノンの魅力は何ですか?

信乃 キヤノンは固いイメージをお持ちの方が多いようです。信頼感や高品質感というものは追究してきたので、それはそれで評価されていると思うのですが、逆に遊び感覚が少ないという自覚があります。私が入社したばかりの頃のキヤノンはもっと新しいものを創ろうとする雰囲気があったのですが、最近はそういう先進的な商品開発が決して多いとは言えないかもしれません。

全く新しいコンセプトで開発したPowerShot N

高野 私は開発に携わっていませんが、PowerShot Nは先進的で新しい商品といえるのではないでしょうか。

信乃 確かにそうだね。このPowerShot Nは全く新しいコンセプトで開発したデジタルカメラで、インターネット限定で販売しています。

近年、カメラの需要というのはスマートフォンの進化により需要が縮小傾向にあるんです。そこで、インターネット時代の新しいカメラができないかということで、若い人たちが中心になってこのカメラを開発しました。デザインが斬新で、シャッターボタンもありません。実はズームリングにシャッターリングを組み合わせており、90度可動の液晶モニターがついているので、構えずとも机の上に置いて撮るなど、いろいろなところから片手で撮ることができるようになっています。さらに、1回のシャッターで「構図」「色/光」「ボケ味」の異なる複数の画像を自動で処理してくれ、それをSNSなどで共有して楽しむこともできます。

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