株式会社三越伊勢丹ホールディングス
ライフスタイルの提案は、ムサビでの学びに通じる
髙橋弥生(工芸工業デザイン学科卒業) × 窪田早紀 (工芸工業デザイン学科卒業)

Profile

髙橋弥生(たかはし・やよい)
1987年株式会社伊勢丹(現株式会社三越伊勢丹ホールディングス)入社。伊勢丹新宿店趣味雑貨部ステーショナリーを経て1989年から宣伝部装飾担当配属。本店広告担当、本社担当を経て現在営業本部宣伝部広告担当基幹店広告に勤務。
窪田早紀(くぼた・さき)
2009年株式会社三越 (現株式会社三越伊勢丹ホールディングス)入社。三越銀座店リビング営業部を経て2012年から営業本部宣伝部広告担当基幹店広告に勤務。

株式会社三越伊勢丹ホールディングスの髙橋弥生さん(工芸工業デザイン学科卒業)と窪田早紀さん(工芸工業デザイン学科卒業)。
美大を強く意識していなかったという髙橋さんと、漠然と美術の仕事をしたいと志していた窪田さん。相反するお二人はムサビでどのような経験をし、一見、美術とは無縁に思える百貨店で働くことを選ぶに至ったのか。ムサビで学んだことがどのように仕事に活かされているのかお聞きした。

お二人が美大を目指した理由はなんですか?

髙橋 小学校の卒業文集では「デザイナーになりたい」というようなことを書いていましたが、実際に美大を目指そうと決めたのは、高校卒業直前になってからでした。それまで、美大に進学しようとは考えていなかったのに、卒業前になって急に「このままでいいのか」と思うようになり、美大を目指すことにしました。

窪田 私はもともと絵が好きだったので、漠然と「美術に関わる仕事がしたい」「美しいものの近くにいたい」と思っていました。そして、美大受験の予備校に通っていた間も、毎日受験勉強で絵を描いているうちに「なんて楽しいんだろう」と思いはじめ、やはり、好きなことをやるためにムサビを目指すようになりました。

ムサビ時代の思い出として残っていることはありますか?

髙橋 工芸工業デザイン学科は機械や機器がないと制作活動ができないので、学校にいる間にしか作業ができません。朝9時頃には学校へ行き、退構時間の夜8時までずっと工房の中にいたという印象ですね。今考えると、華やかな女子大生の時代にもったいないことしたなと思いますけど(笑)。それだけ生活の中に占める制作活動の時間が長く、私にとってはムサビのキャンパスそのものが大学時代の思い出となっています。

窪田 私も同じです。制作に没頭していて、ずっと学校の工房にこもっていました。制作活動の中でもとくに印象に残っているのは、筆ではなく手や足を使って絵を描いたときのことです。テキスタイル専攻では「五感を大事にしろ」とよく言われ、五感を大切にしないといいものは創れないという教えがあります。課題は、その教えの原点にかえれという意味で出されたもので、独特の柄やムラに個性があり楽しかったです。

髙橋 私がよく覚えているのは、共通絵画の授業で馬頭を描いたときのことですね。今もそうだと思いますが、ムサビ生というのはとにかくほかの人と違うことをやりたいという人が多いんです。だから、同じ馬頭でも人とは全く違う発想で描くんです。例えば、平面画なのに粘土で馬の鼻の部分を作り、そこだけ立体にしてしまうとか。その作品を見たとき、私は「これぞ美大!」と思ったことを覚えています。どんな授業でも「とにかく個性を出そう」「人と違うことをやろう」という気概のある学生が多かったように思います。

ムサビでの授業のほかに思い出はありますか?

髙橋 毎日、友達と集まって語り合ったことですね。時にはお酒を交えて、春には花見だとか、いろいろな理由をつけて集まっていました。そこには学生だけでなく教授や研究室スタッフの方々もいらっしゃって、多彩なテーマでディスカッションしていたので、こういった場だからこそ学べたようなことも多かったと思います。また、ムサビの卒業生が経営するデザイン会社でアルバイトしていたのも良い思い出です。当時、印象に残っているのは、「悪運というものは伝染するから、僕は運の悪い人とは一緒にいないことにしているんだよ。だから、暗い人とも一緒にいたくないね」という言葉。そのときは理解できませんでしたが、ポジティブで明るい人と一緒にいるとパワーをもらえて、自分も前向きに物事に取り組める、という意味だったんだと気づきました。

窪田 私は友人三人でインドへ旅行に行ったことを今でも鮮明に覚えています。行きと帰りの飛行機だけ予約して、低予算のバックパッカーだったので、楽しいというよりもつねに苦労と不安を抱きながら旅をしていたという記憶があります。メンバーは私と女友達一人、男友達一人の計三人。3週間ほどの旅でしたが、お金がないのでその間はほとんど一日一食でした。移動手段は徒歩か電車で6都市ほど巡りましたが、トラブルで帰りの飛行機に乗れなかったり、ふだんは見られなかった友人の負の側面を垣間見たり、とにかく精神的にも肉体的にも過酷でした。

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