コクヨ株式会社
付加価値を高める想像力と創造力
井上恭史(視覚伝達デザイン学科卒業) × 福田麻衣子 (工芸工業デザイン学科卒業)

――福田さんは新規事業の開発や研究に携わっていますね

福田 はい。わたしはRDIセンターに在籍していて、直接収益に関わらない新規事業の開発や研究に携わっています。

そもそも私がインテリアデザインを学んでいるときは、オフィスの空間デザインを手掛けたいと思っていました。当時、「働いている人々はオフィスにいる時間が一番長いのに、なぜこんな雑然とした環境なんだろう。私なら、こんな会社で働きたくない!」と思ったんですね(笑)。それで設計の仕事をしてきたのですが、空間を考えるだけでは根本的なものは何も変わらず、人の行動や意識を変えないと働き方も変わらないと考えるようになりました。学生の頃はデザインや空間設計というと、表面的にどう美しく飾るか、どのように美しいレイアウトを考えるかということに意識を集中させてきたと思うのですが、それだけではない、デザインの概念のようなものが広がってきたんです。

――デザインの概念が広がるとは、具体的にどういうことですか?

福田 私も学生の頃は絵や工作が得意だったということもあり、単純にデザインの仕事がしたいと思っていたのですが、現在の仕事はモノの形や表面的なデザインだけでは説得力を持ちません。そこにまつわる新しい体験や営みなどによって、人はどのような影響を受け、行動がどう変わるかといったことも含めて考えながら、デザインを考えていく必要があります。デザインに求められる範囲が広がっていると感じています。

――いまムサビ時代を振り返って思い出深い出来事はありますか?

井上 ムサビで過ごした4年間は、すごく重要な時間だったと思っています。学生という身分は、全く恐れることなくデザインの世界にアクセスできるんですよ。例えば一流の先生も簡単に会ってくれる。これはすごく大きなメリットです。しかし、授業は大変でしたね。特に写真の授業。村井先生の写真の授業は地獄と言われていました(笑)。つまらないアイデアで適当に撮った写真を提出したら全部破られて「はい、次!」といった感じでした。「俺は一回見た写真は絶対に覚えている。だから同じものを二回出したら、その段階で不可だからな」と言われるんです。毎回違ったアイデアを考えるだけでも大変でした。

そのなかで非常に優秀な女子学生がいたのですが、例えば人に会ってムサビの学生証を見せながら撮らせてくださいと交渉して撮影する「面接ポートレート」という課題がありました。彼女は夜中に新宿の歌舞伎町に行って撮影してきたんです。しかし、夜中に撮っていたわけではありません。朝方、水商売の女性たちが仕事を終え、裏口から出てほっとしながら煙草を吸っているようなシーンを撮っているんです。私も学生ながら、これは素晴らしいと思いましたね。

福田 わたしも課題に苦労したことを思い出します。課題は月に一度程度のペースで出されたのですが、出されると一日10時間くらい作業をしていましたね。私はインテリアデザインを学んでいたので、インテリアのコンセプトを決めて図面を書いて模型を作り、最後はプレゼンテーションという順番で進めていくのですが、最後の一週間は地獄でしたね。狭いアパートの中で、プレゼンテーション用の資料と模型とゴミが散らかり、寝る場所もないような中で泣いてるといった感じ(笑)。そこまで頑張って、プレゼンテーションになり、先生がずらりと並ぶ中で説明していくのですが、当時はプレゼンテーションなんてどうしていいか分からないからすごく下手なんです。だから先生から厳しい言葉をかけられ、泣きだしちゃう子もいました。

――そういった経験がいま役立てることができていますか

井上 楽をすると納得のいくものは創れないということを教えていただけたと思っています。写真の授業のときも、街の中で知らない人に声をかけて撮らせてもらうのはすごく億劫でした。だからといって、知人にばかり頼んでいても限界がある。そのため、知らない人に声をかけるわけですが、これだって楽をしないことのひとつだったし、すごく鍛えられたと思っています。

福田 私もムサビ時代に厳しい課題で苦しんだことが今に役立っているのかなと思います。デザイン科の課題というのは本当に厳しくて、卒業した先輩たちからも「会社で働くより大学の方が大変。会社の方が楽だから安心して」と言われたことがあります(笑)。とは言うものの、実際に社会人になってみると会社には別の大変さがあるのですが。

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