コクヨ株式会社
付加価値を高める想像力と創造力
井上恭史(視覚伝達デザイン学科卒業) × 福田麻衣子 (工芸工業デザイン学科卒業)

――いまチャレンジしたいと思っていることはありますか

福田 私は研究開発ということで、コクヨの未来の事業の種を探せという結構壮大なミッションを負っているのですが、これまでのように空間の中の仕掛けと人の意識や行動の変化を考慮した、オフィス空間の設計という仕事は続けていきたいと思います。それと同時に、オフィス全体ではなく、ちょっとした工夫で個々の毎日が楽しくなる、仕事がはかどるといったもっと小さなものにも目を向けていきたいですね。

――現在ステーショナリー業界はどんな局面をむかえているのでしょうか

井上 近年、ステーショナリーは事業環境が厳しいんですよ。ステーショナリーというのは、紙があって初めて役立つものが多いんです。ところが最近、その役割がどんどんパソコンにとって代わられつつあります。

コクヨの得意とする分野は帳簿や伝票など、企業の会計のためのツールが多いのですが、そういうものは今や大部分がパソコンにとって代わられました。便箋や封筒が果たしてきた役割もどんどん電子メールに変わりつつあります。そうすると、需要はどんどん落ち込んでいく。さらに、現在はデフレで価格破壊が進んでいますから、単価も需要も減少傾向と、環境はどんどん厳しくなっています。だからこそ、私たちは付加価値をつけていかないといけないんです。価格競争ばかりしていても仕方がない。まさに、ここにデザイナーや開発者の果たすべき仕事があると思うんですね。さきほどお話した糊でも、液体糊ではなくテープ糊を使うと割高になります。その代わり、それに見合う便利さがあるように、少し値段が高くてもデザイン性が高ければ必要とされるマーケットは確実にある。そういうものを創りだしていくのがクリエイターの役割であり、そこに大きなミッションがあると思っています。

もうひとつ、大きな課題として今、コクヨは積極的に海外へ進出しています。とくにアジアは若年層が多いため、文具を必要としている人々がいっぱいいます。パソコンにとって代わられる商品でも、彼らにとっては主流の品なんです。インドでは人口の約半数が22歳以下と修学人口が多いため、こういう商品の需要はまだまだあると考えています。だから、コクヨは漢字で「国の誉れ」と書きますが、アジアの誉れになるべく、アジア圏で事業を広げていきたいと思っています。

また、付加価値を上げるという意味では、「ザ・コンランショップ」の取り組みもその一つです。これは、イギリスの雑貨・家具店「ザ・コンランショップ」の国内事業を譲り受けたものですが、やりたかったことはデザインによるバリューアップ。デザインによって付加価値を高め、価格が高くともお客様に支持されるモノづくりを目指しています。このほか、輸入家具やオリジナル家具などを通じて都市型のライフスタイル提案を行う「アクタス」も同様です。これらホームインテリアの世界とステーショナリーの世界は違いがあるかもしれませんが、私たちはデザインによるバリューアップと、国際化の二軸で今後の展開を考えています。

――では、最後に今後の未来を担う学生たちにメッセージをお願いします

福田 わたしが卒業した工芸工業デザイン学科では、デザインに関する一通りのことを経験することができ、それがムサビに入って一番良かったと思う点です。デッサンも彫刻もクラフトも、さらに陶芸や木工、テキスタイル……。いろいろな授業があったのですが、それぞれに興味をもって取り組めたことが今にすごく役立っています。おかげで好奇心の幅も広がりますし、そういう環境をぜひ活かしてほしいですね。

井上 やはり大事なのは、想像力と創造力。これが今後の日本にとってすごく大切だと考えています。いまの若者が定年になる頃、40年先の日本の人口は9000万人を下回っているかもしれません。今の4分の3くらいに減少し、おそらくものすごく高齢層の多い国になっているでしょう。そんな環境で日本が豊かになろうと思うと、何かで付加価値を創っていかなければ、この国はダメになると思うんです。今でも経産省がクールジャパンを推進したり、付加価値やブランド力を上げる試みは行われていますが、この国は今後、付加価値のあるモノを創り出せる人材をどんどん育てていかなくてはならないと思っています。だからこそ、ムサビにはそういう人材が集まってほしいし、また徹底的に鍛えてほしいと思います。

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