トヨタ自動車株式会社
いろいろな素材に触れ、刺激を受けた学生生活
佐藤一寛(工芸工業デザイン学科卒業) × 加藤舞 (工芸工業デザイン学科卒業)

――芸術祭での思い出はありますか?

佐藤 私がトヨタに入社するきっかけは、芸術祭でした。芸術祭の作品展示で車の中に置くDVD関連の作品を展示していたのですが、その作品の下に感想を書けるメモ帳を置いておいたんです。すると、「自動車に興味があるのかな? いいものを持っているようなので、一緒に働けるといいですね」というメモ書きがあったんです。これは、ムサビOBで現在同じ部署に所属されている畠さんが書いてくれたものなのですが、すごく感動してトヨタが身近な存在に感じられるようになりました。芸術祭では畠さんには会えず、お話はできなかったのですが、後日、就職説明会のときにお話しする機会があってトヨタに決めました。

加藤 そんな素敵な出会いがあったんですね。私は友人に誘われてトヨタの就職説明会に参加したのがきっかけでした。そのとき登壇されたのは、現在、工芸工業デザイン学科で教授を務めていらっしゃる稲田真一さんで、自動車関連全般のお話をされていたのですが、最後に「自動車に興味のない人でもぜひ来てほしいと思っています」とおっしゃったんです。なぜかその言葉で急に興味が湧きはじめました。しかも、そのときテキスタイル系でトヨタに就職した人はほとんどいなかったはずなのに、田中秀穂先生(現名誉教授)が「君はトヨタにむいているよ」とおっしゃってくださいました。おそらく直感みたいなものだと思うのですが、結局、その言葉に背中を押されて今があります。そういった様々な出会いやきっかけに溢れているのもムサビの特長だと思います。

――トヨタに入社して印象に残っている仕事はありますか?

佐藤 やはり、一番は自分が最初から最後までプロジェクトに関われたハイランダーですね。この車は日本では販売されない海外向けのSUVなのですが、右も左もわからない入社してすぐに携わった車なので、とくに思い出深い車です。このときは、リアまわりを担当したのですが、設計者との交渉なども含めていろいろなことを経験でき、カーデザイナーという仕事の幅の広さを実感した仕事になりました。企画立案、アイデア開発の段階でさまざまな試行錯誤があり、その中のひとつに、その車の顔となるフロント部分のアイデア選考会があったんです。ハイランダーはダイナミックに動いた塊とその一部を削ぎとって出来る硬質な面とのコントラストでタイヤ周りを強調させるという造形の狙いがあったのですが、この段階ではまだ、そういった表情がフロントには出せていなかったんです。そこで選考会が開かれたのですが、最終的にフロントにも同じ表情を取り入れた私の案が選ばれ、車全体のデザインに統一感を出すことができました。このときは入社してすぐだったので、初めて自分の仕事が評価された感じがして、すごくうれしかったですね。

加藤 私は最近手がけた欧州専用車アイゴが印象に残っています。今年の6月末にお披露目イベントがあり、オランダのロッテルダムに行ってライフスタイル系の雑誌やブロガーに向けたプレゼンテーションをしてきました。このプロジェクトは、プジョー・シトロエングループとの協業なのですが、色を提案して社内の合意をとればよい通常の仕事と違い、企業文化の違う彼らとの折衝など、いままでにない経験ができました。しかし、そんな状況のわりには自由度が高く、私のやりたかったことをそのまま形に残せたので非常に印象的なプロジェクトとなりました。例えば、座席などのシートカバーの柄をよく見ると、まるで隠し絵のようにカタカナの「ア」と「イ」と「ゴ」という文字が、織り込まれているんです。欧州専用車なのでほとんどのユーザーが読めないカタカナですが、その発想が喜ばれました。それだけではなく、私の名前は「加藤舞」なので、こっそり「マ」と「イ」も入れちゃったんです(笑)。最初は開発のトップのチーフエンジニアにはカタカナで「ア」「イ」「ゴ」と入れたと報告していましたが、何度目かの検討のときに、実は私の名前の「マ」も入っていて「イ」と合わせ「マイ」と読めることを伝えたんです。すると、それがすごく気に入ってもらえて、製品化に至るまで私が描いたそのままのデザインが通って行きました。今回のオランダでもぜひその話をしてくれと言われたんです。

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