伊藤真一インタビュー

竹のように世界中に根を張る
きっかけになることを期待しています
工芸工業デザイン学科/伊藤真一 准教授
青年海外協力隊員としてガーナ共和国にて家具デザインを指導。開発途上国での製品デザインのあり方に関して研究中。ガーナの木製品を輸出するためのプロジェクトを進行中。
 

デザインによるコミュニケーション
私がプロジェクトに参加する際に、途上国と関わりのある点に興味を持ちました。私は20代後半から30歳にかけて西アフリカのガーナで青年海外協力隊として家具のデザインを教えており、今もガーナと関わりを持ち続けています。私はものづくりを通して、地域経済や現地でデザインを頑張っている学生達に貢献したいという気持ちが強くあります。元々学生の頃から、異文化間において私のやっていることのメッセージが伝わるのか?ということに疑問を持っていました。以降、いかにデザインというツールを通してコミュニケーションをとるか、というところに面白みを感じています。また竹という素材がsustainableなmaterial(持続可能な素材)ということには以前から興味がありました。そんな中、実際にEDS研究所に行き、使用が難しい竹やココナッツの強度を増す技術であることが肌で実感できたため、可能性を感じたことも大きな理由です。

素材への的確な認識
今年度の取り組みとしては後期の最後に、学生達が家具を数点から十点、提案できることが目標です。前期は素材に慣れてもらうことから始めています。と言いますのも、インテリアデザインにおいては素材から発想が生まれる場合が多いのです。いきなりスケッチしても、かたちが出てこない場合が多い。竹の場合ですと弾力、特有の強度、といった特性が、何度も実際に手で触っていくうちに体に入ってきます。それをベースにして夏休みの間にデザインを完成させてもらい、後期にそのデザインをブラッシュアップしながら最終的な家具に仕上げてもらいます。その過程で学生には竹というsustainableなmaterial(持続可能な素材)でありながら、使い方が難しいために今まで使ってこなかった素材にチャレンジして欲しいと思っています。sustainableなmaterialは往々にして育ちが早いという特徴があります。一概には言えませんが、その中には長い年月をかけて育ってきた材料と比べて、使いにくい部分がある場合もあります。そういった素材への的確な認識を勉強してもらいたい。

別の目線をもつ
また、インドネシア研修に関しては現地の学生と、ものを通してどうやって対等なコミュニケーションを築いていくのか考えてもらいたいですね。ある程度英語は頑張ってもらわないといけませんが、自分のデザインを見せつけて相手を納得させるような関係性は好ましくありません。自分のデザインが相手にどのように伝わるか常に考え、相手の目線に立って物事を考えるようにしてもらいたいと思っています。特に異文化同士の場合は、気持ちの上で自分が相手の立場になりきるといったことが、少なくとも一度は必要になってきます。相手の立場だったとしたらどのように思うだろうか、ということを考えながらデザインすることが大事です。現地で商品を展開する場合はもちろんのこと、生産する場合も生産者の気持ちがわからないと難しい。特にcommunity development(コミュニティ開発)を考えたときには、どうしたら対象コミュニティの人々がやる気になるだろうと考えたときに、自分の視線が相手と同じでなければなりません。
それは目線を下げるということではなく、別の目線を持つということです。

「私がこの国で生まれたら」
日本に住んでいると、日本の慣習に基づいた考え方、身のこなし方を自然と身に付けます。いざ日本と違う国に行くと、現地の慣習が受け入れがたいことも当然あります。あるいは憧れて終わる、ということも多いでしょう。これは私がガーナで経験したことなのですが、異文化と遭遇したときに生じる様々な思いを乗り越える一つの方法は、「私がこの国で生まれたら」ということを想像することです。そうすると殆どのことに納得がいきます。日本の価値基準で考えると非合理に思えてしまうことが多々ありますが一度、自分が生まれ育ったと想像することによって、大半が合理的に思えてくるのです。 現在のようにインターネットなどの発達により世界の中で、そういった合理・非合理の問題は徐々に小さく、共通化していくということはあるでしょう。ですが逆にこれからは国による文化の差ではなく、宗教や経済による価値構造の違いが顕著になってくるのではないでしょうか。そういった場合でも自分が相手の立場に立ち、相手をrespect(敬意を表する)できるかどうかが重要になってきます。これらのことは時代を生き抜くための手段というよりも、豊かな人間性として必要なことだと思います。今回のプロジェクトでは素材を知ってものをつくること、そして異文化の相手の立場に立ってものごとを考えられるか、という二点を学生に感じて欲しいと思っています。

ものづくりと教育の一体化
私自身竹を初めて扱うので、竹の色気をどこまで引き出せるかということが課題です。徐々に美しいかたちが発見できてきています。また、私もインドネシアの先生達とどのようなコミュニケーションができるのか、というところに関心があります。将来は、今回のプロジェクトをさらに発展させるために、アフリカでものづくりと教育を一体化したプロジェクトを行いたいと思っています。