富士ゼロックス株式会社
人と人とのつながりと揺るがないコンセプト
古郷慎也(基礎デザイン学科卒業) × 扇一行 (工芸工業デザイン学科卒業)

――そのなかで印象的な友人とかはいますか?

 サークル仲間にはクリエイティブな面での刺激はもちろん、生き様そのものにも刺激を受けました。なかでも、油絵学科の友人がおもしろかったですね。ある日、彼のアトリエに遊びに行ったのですが、そのとき彼は自分の描いた絵を乾燥させる時間を待っていられずに、油だから火をつければ早く揮発して乾くだろうと思って火をつけ、全焼させちゃったんです(笑)。そんな発想がわたしにはたまらなくおもしろかったです。

――お二人が富士ゼロックスに就職したのはなぜですか?

 わたしは最初、家電メーカーを4社ほど受けたのですが、全部ダメでした。デザイナーの採用はまず最初にポートフォリオによる書類選考があり、そこを通過すると実習があるのですが、なぜか実習が上手くいかなかったんです。それで、どうしようか悩んでいたときに富士ゼロックスの話があり、受けてみたら実習の内容が他社と違っていたんです。他社はテストされているような実習なのですが、富士ゼロックスの場合はワークショップのような雰囲気。試されているというより一緒にデザインの勉強をしているようでした。

――具体的には何が違ったのでしょうか?

 多くの会社は最初にテーマが出され、次にアイデア展開、ビジュアル化、最後にプレゼンへと進みます。その過程の中でチェックがあったり、ときにはアドバイスされることもあるのですが、富士ゼロックスの場合はこのチェックやアドバイスが少し変わっていて、担当者がすごく丁寧に一人一人の適性を見ながら一緒になって考えてくれるんです。それだけではなく、実習の過程でデザイン講座のようなものがあり、例えば「ターゲットユーザーはなぜ設定しなければならないのか」というようなことを学ぶのですが、そこで大学時代にはよく理解できず疑問に思っていたことがすごくクリアになったりしました。

ですから、他社を受験したときはみんなライバルという雰囲気だったのですが、富士ゼロックスの場合はそういうギスギスした雰囲気がなく、終わった後、「楽しかったからもう落ちてもいいや」と思っていました。自分は落ちても一緒にいた彼は受かってほしいな」「彼のデザインした商品が見てみたいな」というように奇妙な心境になっていたんです。

結果、わたしは合格したわけですが、今考えてみると他社のときは「採用してもらいたい」という気持ちが強くて空回りしていた反面、富士ゼロックスでは肩の力が抜けて普段通りに自分の実力を出し切れたというように思います。

古郷 富士ゼロックスの実習(デザイン研究会)はチームでディスカッションし、お互いに意見を出し合いながら高め合い、最終的にいいものを創るという過程の中で、学生だけでなく自分たちも学ぼうという気持ちで行っています。ですから、最終日には感動してみんなが泣きだしてしまうということもあります。その中で、我々は作品そのものよりも“人”をじっくり見ており、学生がこの環境の中で人とどう接しているか、第三者の意見をしっかり聞きながら自分を高めていこうとしているかということを見ています。結局、そういう部分をもっていなければ、会社に入った後に成長できないですから。

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