株式会社資生堂
社会が求めるクリエイティブ力
小野健(視覚伝達デザイン学科卒業) × 小林麻紀 (視覚伝達デザイン学科卒業)

Profile

小野健(おの・たけし)
1990年株式会社資生堂入社。宣伝部にグラフィックデザイナーとして配属。1994年6月 資生堂FT事業本部宣伝企画部に異動、CMプランナーとしてのキャリアを積む。2000年6月 資生堂宣伝部に復帰、アートディレクター兼CMプランナーとして多くの国内化粧品ブランドの広告を担当。代表作にPN、プラウディア、エリクシール、HAKU、アスプリール、アネッサ、ジェレイド、薬用アデノゲン、TSUBAKI、洗顔専科、IN&ON、ザ・コラーゲン等がある。
小林麻紀(こばやし・まき)
2012年株式会社資生堂入社。宣伝制作部にグラフィックデザイナーとして配属。Maquillage、Beauty Book、Kidzania、センデン部ウェブサイトなどに携わる。

株式会社資生堂の小野健さん(視覚伝達デザイン学科卒業)と小林麻紀さん(視覚伝達デザイン学科卒業)。宣伝制作部でグラフィックデザイナーとして同社の商品広告を手掛ける。
ムサビ時代に資生堂とのつながりを見つけ、惹かれたことで入社に至ったというお二人。クリエイティブ力は誰しもが求められる現在、ムサビで学んだことはどのように活かせているのかをお聞きした。

――ムサビ時代に学んだことで、印象に残っている授業はありますか?

小野 アドバタイジングの授業ですね。好きな会社の広告の歴史を学ぶという授業で、資生堂をテーマに選んで研究しました。資生堂の広告には、自分が思春期の頃に影響を受けたり、自然と頭に残っている映像や音楽だったりが、すごく多いということに気づきました。この頃、資生堂への憧れの気持ちが生まれたのかもしれません。

小林 わたしは、とくにこれという授業をあげるのは難しいのですが、授業を通じて学ぶ「デザインはコミュニケーションだ」という考え方が深く印象に残っています。この言葉は視覚伝達デザイン学科の教育方針のような言葉で、資生堂のデザインの考え方と共通するものだと思っています。

小野 話をしたり、見たり聞いたりというコミュニケーションは、すべてデザインされたものがあるからこそ成り立っているよね。大きな意味で。

小林 はい。人に伝えるための手段はすべて、デザインすることと同じことだと思っています。

小野 現代社会ではデザインが注目されることが多く、クリエイティブ力がいつにも増して必要になっている時代だと思います。営業やマーケティングの力だけでは、需要を満たせない時代になってきていると気づき始めている人が多いのかもしれません。例えばAppleやGoogleなどは、「伝えたいこと」「表現したいこと」を圧倒的なクリエイティブ力で示し、世の中をリードしていますよね。これは企業に限らず、公共の施設やサービス、政治の世界でも同じだと思います。例えば、安倍首相が国民に何かを伝えたいとき、ポスターやSNSなど、さまざまな手段を用いますが、その一つ一つについてもクリエイティブ力が必要であり、それらの手段を使ってどうコミュニケーションをとるか、それがすごく大事な時代になっていると思います。

美術やデザインというのはごく日常的なものとなっていて、昔のように特別なものというイメージは持たれなくなっていますよね。わたしが学生だった頃はまだ、美術やデザインを学ぶことは特別なことで、自分たちは一般の人たちとは違う特別な存在なのだ、という意識をもっていたし、周りからもそう思われていたように思います。

小林 営業の仕事をしているムサビ時代の友人がいるのですが、大学時代に創作活動を通じて考え続けてきた「どう伝えれば相手にとって分かりやすいのか、注目してもらえるのか」といったことが、営業にすごく役立っていると言っていました。だから、美術やデザインと直接関わりのない仕事でも、美大で学んだことが生きるシーンはたくさんあると感じています。

――ムサビで学び以外の活動はしていましたか?

小林 ムサビ時代は、ムサビだけに留まらず、いろいろな大学の学生と交流がありました。特に、フリーペーパーの創作活動を展開する学外の団体に所属したことはいい経験になりました。美大生向けの「PARTNER」というフリーペーパーなのですが、そこでライターになったり、デザイナーになったり、カメラマンになったり、編集長になったこともあります。さらにその延長で、Student Freepaper Forumというコンテストも運営しました。

――お二人とも大学時代の経験が今の仕事に関わりをもっているようですね。

小野 そういうことになりますが、わたしは3、4年のときはアドバタイジングの授業をとらなかったんです。なぜかというと、アドバタイジングの授業はグループワークの作業が多かったから。学校の共通課題などで作った作品は就職活動の場には生かしにくいとも思ったし、好きなものを一人でどんどん作っていきたいと思ったのです。それで、グラフィックやパッケージデザインなどを中心に、勉強をしていました。また、あの頃は女性をテーマにしたものばかり作っていたこともあり、就職活動も、自然と女性に関わりの深い会社に焦点を合わせていましたね。

小林 わたしの就職活動はとにかく“人”を重視していました。学生時代の活動を通じて、何が作りたいということよりも、誰と作るのか、誰のために作るのかということが大事だと考えるようになったからです。わたしが資生堂に惹かれたのは、まさにその部分です。例えば、フリーペーパーの創作活動でたまたま資生堂ギャラリーのレセプションに参加する機会があったのですが、その場で現顧問の岩田喜美枝さんにお会いしたとき、良い人だなと直感的に思えました。この人と仕事がしたいなって。出会った方々がすごく誠実な方ばかりだったことが、資生堂で働きたいという気持ちをもたらしてくれました。

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