株式会社資生堂
社会が求めるクリエイティブ力
小野健(視覚伝達デザイン学科卒業) × 小林麻紀 (視覚伝達デザイン学科卒業)
――ムサビ時代に学んだことで今の仕事に役立っていることはありますか?
小野 たくさんありますが、普通の人が原稿用紙1枚分も使って伝えるような内容以上のことを、たった1、2行のコピーとビジュアルだけで伝える術を学んだことは、すごく役立っていますね。これはデザイン力や描写力が必要なわけですが、この能力はすべてのディレクションに繋がっています。しかし、この業界のなかには、こういった勉強をしていない一般の大学を卒業された方々も沢山います。こういう人たちはクリエイティブな作業を論理的に考えて頭から入っていきますが、われわれは絵心から入っていきます。この両者の大きな違いは「美術の基礎力」にあると感じていて、それは美大卒業生の大きなアドバンテージだと思っています。例えば、カメラマンと一緒に仕事をしているとき、「こっちの光をもう少し強くしてください」とか「もっとここの空間を空けて影を延ばしてください」といった指示をするときがありますが、こういうことはデッサン力がなければできないことです。また、わたしは過去に「TSUBAKI」の広告宣伝でアート・ディレクターの大貫卓也さんと一緒に仕事をさせていただいたのですが、大貫さんも美大出身のため非常にデッサン力を重視していました。極端な例ですが、「デッサン力のない人はチームにいらない」とハッキリ言われるほどでした。
小林 わたしも撮影用のラフを描いているときなどに、同じことを感じます。どのような写真を撮るのか、隅々まで想像をはりめぐらせて形にすることは、自分のイメージをはっきりさせるうえでも、またそのイメージを人に正しく伝えて説得する上でも重要なことです。実は、わたしはデッサンが苦手なのですが…すごく大事な能力だと思います。
――では、最後に美術やデザインを学ぶ学生や受験生の方たちにメッセージをお願いします。
小野 今の時代、美大は特別な存在ではなくなっていると思います。わたしが大学生だった頃は、まだ日本がどんどん成長をしていったバブルの少し前の時代で、生産すればしただけモノが売れていく時代でした。しかし、ここまで成熟した社会になってくると、生産したらすぐ売れるわけではなく、いかに差別化を図って人々に受け入れられるものを作るか、つまりクリエイティブ力が必要な時代になってきたと思います。そのため今、社会が一番求めているものはクリエイティブ力と言っても過言ではないと思います。ムサビには、このクリエイティブ力を身に付けるための、最高の環境が整っており、才能を磨くチャンスにあふれています。ぜひ、自信をもってデザインや美術の勉強に励み、みなさんの才能を社会に役立ててほしいと思います。
小林 わたしは中学生の頃から、将来はアートディレクターになりたいと思ってムサビに入学したのですが、入学後自分の将来の選択肢にすごく悩んでしまうほど、おもしろいと感じる授業が多かったです。また、ファッションの勉強をしている人、プロダクトデザインを勉強している人など、さまざまな分野を学ぶ他学科のムサビ生との交流も、自分の視野を広げる一助になりました。これはムサビだったからこそ得られた機会だと思います。ぜひ、ムサビで自分の視野を広げていってほしいです。