この取組では、武蔵野美術大学のもつ教育研究資源を拡充し、新潟県新潟市岩室温泉の地域と協同して、アートとデザインによる地域活性化の提案を行う実践的教育プログラムを構築します。
平成14年度及び16年度、18年度に行った「アートサイト岩室温泉」(本学学生の卒業制作を岩室温泉に展示。コンサートやワークショップを同時開催)で確立した旅館組合や地域住民との信頼関係を基盤に、地域の特性とニーズをより深く学び、地域にふさわしい未来のあり方を住民とともに模索しながら、地域環境の創生、産品の開発、コミュニケーションの活性化をアートとデザインの視点からトータルに提案していきます。
学生はプロジェクト科目、専門科目、課外教育活動を有機的に結び付けた学習で、これまで培われた基礎力を地域の問題解決に応用し、地域に密着して構想を実現します。
この取組により、地域特性に根ざして地域活性化を推進するグランドデザイン形成を担う人材の育成をめざします。
この取組の目的は、温泉という観光資源をもつ岩室地域をフィールドとして、豊かな自然や文化に触れ、住民と交流しながら、地域にある現実の課題と取り組み、領域別デザインから発展して、地域のグランドデザインを構想できる力をもつ学生を育成することにあります。この目的を達成するためには、学科を横断して一つの課題に取り組むプロジェクト科目を、これまでに行なわれてきた専門科目や主として岩室地域で行なわれる課外教育活動と有機的に連動する教育プログラムの構築という教育課程上の工夫が必要です。また、地域のおかれている現実の課題と取り組むために、学生が実際に岩室地域への調査を実施するばかりでなく、地域振興に成功した他地域の事例を視察・調査・学習する機会が必要となります。
本学の教育目的である「真に人間的自由に達するような美術教育」という建学の理念のもと、学生はこの取組によって、現実の課題に沿った地域のグランドデザインを形成し、アートとデザインの領域でこれまで培ってきた基礎を社会で生かす実践力を身につけると同時に、より広い視野でグランドデザインを構想する力を養うことが可能となります。
岩室温泉は新潟県のほぼ中央、北陸街道と中山道を結ぶ北国街道に位置し、弥彦神社の北・多宝山の東側に広がる温泉地。「新潟市の奥座敷」として、また越後の一宮「弥彦神社」の参拝の拠点として、古くから利用されてきた。弥彦スカイラインで弥彦山の頂上に登ると、日本海に浮かぶ佐渡と、反対側には見渡す限り広がる越後平野が望める。
温泉地としての始まりは江戸時代中期(1713年)、伝説によると、夢のお告げを受けた庄屋が、温泉で傷を癒す一羽の雁を見つけたのが発祥といわれている。
現在、老舗旅館を中心に13軒ほどの宿が立ち並び、静かで落ち着いた佇まいを見せている。
詳細は下記をご覧下さい。
http://www.iwamurokankou.com/
「いわむろのみらい」創生プロジェクトは平成18年度文部科学省現代GP選定事業です。
現代GPとは、「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」のこと。地域活性化への貢献や知的財産関連教育など、社会的に要請の強い各種政策課題に関して設定されたテーマに対応した、特に優れた取組を支援する文部科学省の事業です。
対象となるテーマは
(1)地域活性化への貢献(地元型)
(2)地域活性化への貢献(広域型)
(3)知的財産関連教育の推進
(4)持続可能な社会につながる環境教育の推進
(5)実践的総合キャリア教育の推進
(6)ニーズに基づく人材育成を目指したe-Learning Programの開発
の六つです。テーマは毎年変わり、まさしく「現代」に即した取組が評価されます。
本学が申請した2件は、(2)と(6)に係る取組です。採択率は21.3%と18.3%でした。
美術やデザインの造形芸術を特色とする大学が、その特性を活かし、「岩室温泉」という地域のグランドデザインを形成し提案するというテーマ、更に学生にグランドデザインを作らせて選んでいくという手法ー例えば、メインストリートの街路灯、公園の環境デザイン、岩室温泉の企画などーを加えて、領域別デザイン等を学生と地域住民、自治体が協力しながら実現していくという構想はユニークで夢があり、具体性も伴っています。また、全学的な取組になっており、成果も期待できます。
この取組に参加する学生は、社会に通用する実践力、社会に参加し得た充足感、社会に認められた誇りが加味され、学習内容を他地域で応用し、それぞれの地域の活性化に貢献することが期待できます。即ち、地域全体のグランドデザインを形成し得る人材育成を目的として、領域、学科及び課外教育活動を統合した教育へと体制の整備をした点が優れています。
一方、教育方法もプロジェクト科目、専門科目、課外教育活動の三つが有機的に連動する教育プログラムを新たに構築するという具体性も見えています。
美術系の大学が地域で時々展示するというレベルでなく、温泉全体を活性化するというコンセプトは独創性があり、アートとデザインが実践の場で融合するという視点もユニークです。学科の壁が高い芸術系ですが、岩室温泉を通して学科等の壁を越え、現実に立ち向かう様は他大学にとっても参考になると考えられます。