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2007年度展示会実施概要報告

2008.2.8〜11
2007年度第10期「美術と福祉プログラム」展示会(実施概要報告)

高橋陽一(取組責任者・教授)

ここには展示会概況の報告書を掲載します。参加者や学生スタッフの感想を含めた全文は『2007年度報告書』に掲載します

(2)当日の概況
 スタッフを除く当日の参加者人数は、8日(金)23名、10日(土)14名、11日(日)38名、12日(月)20名であり、4日間合計95名である。これは、受付での記名者のみである。他の学校や福祉・行政・報道関係であると明記があった方が23名、一般が23名、本学卒業生が4名、本学教職員が21名、本学学生が24名であった。参加者数については、決して多くないが、本学以外の参加者が多くあった点などは評価できると考えている。また、昨年度につづいて2回目の見学に来た個人・機関の方々も少なくない。

(1)展示について
 展示は3つの教室を使用して、4日間を通じて11時から17時まで実施した。会場はRoom-A及びBの移動隔壁を取り払って、岩崎クラス(教職総合演習TC)と葉山クラス(教職総合演習TA及びD)の合計3クラス4施設で展開し、Room-Cは杉山クラス(教職総合演習TB)の1クラス2施設の展示を行った。展示は、岩崎クラスが学生1人1点の作品及び小型の説明パネルと本年度より追加したグループ別パネル、葉山クラスが数名のグループごとのパネル展示と報告書の提示、杉山クラスはグループごとの紙芝居の展示とビデオの上映という形態である。さらに学生スタッフの提案により杉山クラスでは模擬ワークショップとして布細工の「ことりをつくろう」を実演した。展示計画は杉山講師のディレクションのもとで清水恒平氏がデザインし、展示設備としては段ボールパネル(横2メートル、縦2メートル30センチで二つ折り)と会場の机を活用して、サイン計画として施設クラス名のバナーや説明パネルを作成した。
 学生スタッフには、設営日に『運営マニュアル』を渡し、誘導の仕方、説明の仕方を高橋取組責任者からレクチャーし、参加者からの多様な質問に対して、各自の体験から答えられるように準備を求めた。学生スタッフは説明に当たって、十分な展示説明と臨機応変な対応に心掛けた。参加者の要望や展示見学の時間は様々であったが、1時間を超えて熱心に巡回する方も少なくなかった。
 受付や学外からの来場者の対応については、教職課程研究室の大坪圭輔教授、伊東毅教授、高橋陽一教授、教職資料閲覧室の吉岡美樹嘱託、赤羽麻希嘱託、石田明子氏があたった。また新宿サテライトスタッフにも各種の応援を受けた。

(2)クラス別の発表会について
 クラス別発表会は、4クラスごとに90分程度として、Room-Eで実施した。各担当教員の考え方に従って内容などは様々な形態を取った。進行としては、高橋取組責任者から教員を紹介し、発表のあとで30分程度の質疑応答時間をもつことに心掛けた。参加人数はそれぞれ10名余りで、日程によっては少ないときもあったが、他大学の教員や、社会福祉施設や社会福祉行政の関係者が多く、また本プログラムに直接に分担していない本学教職員なども参加して、質疑応答は実りあるものとなった。各クラスの取組については、『2007年度報告書』でクラス別に詳述するので重複を避けて、概要のみを紹介する。
 初日である8日午後1時からの杉山貴洋講師による「担当Bクラス発表会」では、学生たちの曙光園と小平健成苑での活動状況や「記録と表現」活動のための指導の状況について、パソコンとプロジェクタを活用して説明が行われた。とくに、学生たちの紙芝居、ワークショップの構想プロセスに関心が集まった。また、杉山貴洋講師が、本務校の白梅学園大学で展開中のプロジェクト「アートでつくる障害理解社会の形成」(平成19年度文部科学省現代GP選定)についても紹介され、造形ワークショップを基軸に、教育と社会福祉を捉えるさまざまな実践の提起があった。とくに紙芝居というメディアの可能性については、「言葉にならないものを受け止める」ことが語られ、質疑応答でもコンピュータなどにはない肉声のコミュニケーションとしての意義などが語られた。
 岩崎清講師からは8日午後3時から「担当Cクラス発表会」(小川ホーム)が行われた。レクチャールームで1年間のプログラムの概要と「造形ワークショップ」についての考え方が説明された。授業の「年間演習計画」が配付され、実際の授業展開にそって課題が語られた。感動を文章として記し、さらにそれをコンセプト化し、最後に造形作品として各自がつくりあげるプロセスが説明された。
 葉山登講師からは、9日午後1時に「担当Aクラス発表会」(やすらぎの園、けやきの郷)、10日午後1時からは「担当Dクラス発表会」(あさやけ作業所)が行われた。葉山クラスの発表では、まず葉山講師により美術と福祉プログラムの特徴と1年間の取り組みが説明され、さらに葉山クラスで工夫されている事前学習レポートや発表、記録の整理と文集づくりといった教育上の工夫が詳しく説明された。
 学生からの発表では、やすらぎの園第2班5名からは共同制作がグループの連帯感を強め、取り組みの前提になることや、誰にでも分かる美術という可能性を考える意義、認知症などを書籍により調べる作業と高齢者から造形ワークショップについて「一生忘れません」と言われた感動などが語られた。また、けやきの郷第3班6名からは、似顔絵や、布の花の飾り付けなどの工夫が語られて、入所者から老いの意味を考えさせられ、その「器の大きさ」に感動したことなどが語られた。あさやけ作業所A1班1名からは、サマースクール参加者のための「あさやけニュース」の作成や紙漉きのワークショップなどを通して「出来ないから手伝う」だけではない交流の意義が語られた。またあさやけ作業所B2班5名からは、第2作業所で働く人々の「統合失調症」に対応した作業の様子と、「さわやかーてん」というデカルコマニーによる共同制作のプロセスが説明された。

(3)シンポジウムについて
 10日の午後3時からは、シンポジウム「これからの美術教員養成のために 美術と福祉プログラムからみた武蔵野美術大学の課題」が開催され、30名近い参加者があった。甲田洋二学長から「創立80周年を迎える武蔵野美術大学と美術教育の課題」、大坪圭輔教授から「今日の美術教育の動向等と武蔵野美術大学の役割」、高橋陽一教授から「これからの教員養成 美術と福祉プログラムから見えるもの」として報告があった。
 甲田洋二学長からは、まず武蔵野美術大学の建学の精神について説明され、創立80周年を迎える本学の建学の精神「教養を有する美術家養成」(金原省吾)を踏まえ、戦後の名取堯の言葉「真に人間的自由に達するような美術教育」や、作家・高橋由一の言葉「眼低手高を否定し、眼高手低に徹すべし」が紹介されて、武蔵野美術大学のあり方が提起された。さらに、共通絵画研究室の教員としての永年の教育活動から現在の美大生のありかたが論じられて、初等中等教育の美術の時間数削減に話題が転じ、これからの学校での美術教育を活性化するためにも、美術教員を応援するための武蔵野美術大学が果たすべき課題が大きいことを提起した。
 大坪圭輔教授(教務部長)からは、現在の学校教育の状況、新たな学習指導要領の変化について、教科書編纂などの豊富な経験から問題が提起された。とりわけ、学校での美術教育が時間数削減の影響で、子どもたちの作品が「短・小・軽」という傾向が端的に表れていることが指摘された。また、武蔵野美術大学の教員養成の実績と課題として、市民意識(citizenship)をもった教員が必要であるとの提起がなされた。
 高橋陽一教授からは、中央教育審議会答申などから教員養成改革の状況が紹介され、美術と福祉プログラムが4年間の教職課程の水準向上の効果をもたらしている状況が説明された。また、甲田学長の報告を踏まえて、「教養」や「自由」という精神が教員養成に意義があること、さらには教室に留まらない造形教育の視点をもつためには「造形ワークショップ」の経験が重要であることなどが提起された。
 質疑応答では、武蔵野美術大学の建学の精神をもう一度聞き直したいという質問や、通信教育課程の卒業者も含めて卒業者の教員をどう支援するかという通信教育課程学生からの問題提起、また併設校である武蔵野美術学園との生涯学習という課題でのあり方などさまざまな発言があった。

(4)特別講義について
 最終日の11日午後1時からは、川本雅子講師により「曙光園でのワークショップ 美術と福祉プログラムから9年間の取り組み」と題して特別講義があった。「美術と福祉プログラム」の第2期に学生として参加して曙光園での介護等体験を行い、その後本学の助手や非常勤講師となりつつ、曙光園での造形ワークショップ活動を9年間にわたって実施してきた記録に基づく発表である。この内容のほぼ全文は『2007年度報告書』に掲載されるので、ここでは概略のみの紹介にとどめるが、大学教員や社会福祉関係者から活発な質疑応答があった。とりわけ、ワークショップを「日常」の視点から論じることの必要性や、継続することの意義などに注目が集まった。

(5)その他の企画について
 上述した展示と企画のほか、この展示会を豊かなものとするために小規模な工夫を行った。まず、3つの現代GP、「『いわむろのみらい』創生プロジェクト」と「造形ファイル」と「EDS竹デザイン・プロジェクト」については、それぞれ2枚程度のパネルと資料配付が行われた。
 また、本学の教育成果を社会に発信する取り組みとして、武蔵野美術大学出版局の刊行物を受付の横で展示したことについても、見学後に足を止めて閲覧する方が多くあった。このブースには常時1名の出版局メンバーが詰めることで、効果的な説明を実施した。
 また、第2回外部評価委員会を8日午後5時に本会場で実施し、外部評価の参考として展示を案内して学生のよる展示説明を行ったことも有意義であった。

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