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担当教員紹介

たかはし よういち
武蔵野美術大学常務理事・学長補佐・教授。教育学(日本教育史、国学)を専攻。著書に『道徳教育講義』(武蔵野美術大学出版局)ほか。

6つの施設と4つのクラスを結んで
プログラム責任者 教授 高橋 陽一


美術と福祉プログラムの教育課程としての眼目は、介護等体験と大学の授業科目を組み合わせて、社会福祉施設での活動と大学での継続的な指導を結合した点にあります。 これはプログラムを企画構想した1998(平成10)年度の第一期からの特徴ですが、初年度、大学での課外の指導として一人だけで担当していたころと比べると、指導が時間割に組み込まれ、さらに正規の演習授業としての4クラス編成へとなるなかで多くの可能性が広がっていきました。とりわけ、岩崎清講師、葉山登講師、杉山貴洋講師がそれぞれの専門を生かして指導に当たっている点が、ワークショップの研究においても、社会福祉の課題の理解においても、効果を上げていると考えています。
現在、4つのクラスと6つの社会福祉施設を結びつけることが大きな課題となっています。とくに、各施設と課題や反省の共有を行い、各クラスを通じた研究課題と次年度に向けてオリエンテーションを実施して、年間を通したプログラム全体の調整をしていくことが私の担当教員としての中心的な活動です。 今後は、さらに外部評価委員会の方々や各分野の専門の講師による御教示を賜り、大学外にも一層開かれた視野を獲得することにより、このプログラムが学生自身による表現と記録の機会として深みを増すように努めたいと考えております。

はやま のぼる
武蔵野美術大学非常勤講師、色彩造形研究所所長。彫刻・美術教育学専攻。著書に『色彩造形教育の実践』(はる書房)ほか。

仲間と行動しながら全身で考え記録する
教職総合演習IA・D担当 講師 葉山 登


私が担当している2クラスでは、学生たちに「一人ひとりを大切にすることの実際」を学んで欲しいという願いからグループ活動を基本に進めています。
その手始めに行っているのが共同制作「オリジナル色紙でコラージュ」です。色彩とフォルムによる表現活動は、自身の姿をありのままにさらけ出させる性格をもっていますから、互いを深く理解し合う絶好の機会となり、以後の活動を円滑にさせてくれます。
次に行うのは施設や利用者などについて調べるレポート課題です。知識を広げることは極めて重要です。施設職員からのアドバイスや新しい情報を受け入れる力、そして他者への想像力を高めてくれるからです。 さらには美術の楽しさを施設で活かす交流企画の立案です。企画を立て、試作を作り、企画書を作成します。ここでは、具体化の過程を学び、行動しながら全身で考えることを体験します。 このような準備の上でそれぞれの介護等体験に臨み、体験中は日誌、体験後は交流企画実施の様子や「体験を終えて」のレポートが課されます。最後は総まとめの文集作りです。学生たちは1年間の記録を何度も読み返し過程を振り返る機会を得ます。こうした1年間の演習によって、学生たちが自らの成長を自覚し、自身と仲間の存在を肯定し、「私にもできる」という自己の可能性の発見を育むことをねらいとしています。

いわさき きよし
武蔵野美術大学非常勤講師。文学を専攻。単著『ブルーノ・ムナーリのアートと遊ぼう』、共著『四本足のにわとり』、共訳『芸術による教育』(ハーバート・リード著)ほか。

人間性豊かな教師になるために
教職総合演習IC担当 講師 岩崎 清


小川ホームでの介護等体験の実習を通じて、学生たちが未体験の社会経験を積み重ねて、自分を見直し、自己変革の道を歩むことを目的とする。
一般社会とは離れた施設で生活している高齢者や認知症の人びとと出会うことによって、実習生は意思の疎通の困難さを考え、生命や老齢そして孤独など人間の宿命を思い、家庭や共生の意味を問い直し、思いやりや優しさがいかに社会生活に潤いを与える潤滑油であるかということなどに気づく。また、実習中に、高齢者などが普段経験したことのない「美術プログラム」を実践し、学生は「美術」を介在にして入居者とともに新鮮な感動を分かち合う。そうした体験は、学生に他者との差異、生きること、共生、人間が生を営むにあたって、もっとも根本的な事柄は何であるか、そしてまた美術がもつ力などについて深く思索させることになると思われる。それが「介護等体験」で学生が獲得する教科の内容である。
学生の実習が実りあるようにするために、この教科の演習は、前期では介護実習の高齢者施設などにおいて実践する「美術のプログラム」の制作を中心に構成され、後期は学生がその介護等体験によって獲得した自他との差異の発見・自己変革・新たな自己の発見を柔軟な教育思想へと教化させていけるように組み立てられている。
こうした授業の構成によって、「介護」のさまざまな体験は、子どもに対する視点へと質的に転換され、将来、中・高校の教師として立つ学生の人格形成に大いに寄与することになるだろう。いわばこの「介護等体験」は、柔軟で、幅広く、深みのある教師となるための「基礎」を築き上げる実践的な修業過程といえるだろう。

すぎやま たかひろ
武蔵野美術大学非常勤講師、白梅学園大学専任講師。編集『ワークショップ実践研究』(武蔵野美術大学出版局)ほか。

制作を通じて
教職総合演習IB担当 講師 杉山 貴洋


私たちのクラスの学生は、重度身体障害者更生援護施設・曙光園と特別養護老人ホーム・小平健成苑で実習をしています。二つの施設は、入所者の年齢も生活も異なり、その背景も大きく違っています。しかし、共通していることは、制作を通じたコミュニケーションが実習の大きなテーマになっていることです。そのため、このクラスは、頭と体をつかったコミュニケーションゲームなどを用いて、状況に合わせて、柔軟な造形プログラムができるような工夫をしています。
曙光園では、入所者の方と一緒に、納涼祭に飾る野外ディスプレイや、ポスターを作ります。今年は、このテーマでいきたい、イメージはあるのだけれど、どうやって作ったらいいのだろうか、入所者の方と学生のやり取りから実習が始まります。 また、小平健成苑では、プログラムの運営を学生自身が行います。その日によって、状況が変化するため、柔軟なすすめ方が求められます。思い出に残るものが喜ばれるため、実用的で親しまれるものを提案します。作品が完成し、飾られることが、ご家族への励みにもなるそうです。
実習を終えると、お礼のグリーティングカードを贈ったり、美大の芸術祭に招待をしたり、さまざまな交流を持ちます。 一方で、実習の体験を紙芝居で演じ、後輩や、所属する研究室に伝える課題に取り組みます。学生たちは、自分たちの専門性と介護の実習が、どこかで結びついていることを、体験を通じて理解しているようです。特別なことでも、他人ごとでもない、個人を尊重するという当たり前のことを受け止めたとき、他者に対する思いやりが生まれるのだと思います。