TOP > お知らせ > 「NHK教育フェア2008」造形ワークショップ開催報告書

お知らせ

2008.11.4
NHK教育フェア2008報告書
造形ワークショップ「人を思う心が集まるよ いろいろ色のフェルト・タピストリー」
武蔵野美術大学「美術と福祉プログラム」取組責任者
教授 高橋陽一

 日本放送協会からの要請により、2008(平成20)年11月1日(土)から3日(祝)に東京・渋谷で行われた「NHK教育フェア2008」に「武蔵野美術大学 美術と福祉プログラム」の展示及びワークショップを実施した。3日間のワークショップには約700名の子どもたちの参加があった。美術と福祉プログラムは高齢者や障害者を念頭にした取組であるが、今回の展開は造形ワークショップの在り方を考えて広く共有するためにも大きな意義があった。
 この企画はNHK教育フェアとしても、本学としても初めてのものであり、参加された方々に御礼を申しあげるとともに、希望者が多いためにお断りせざるを得ないケースが発生して残念ながら参加できなかった方々にはお詫びと感謝を申しあげたい。
参考
本学配付パンフレット PDFファイル
NHKホームページ(日本放送協会へのリンク)

1 企画の経緯
 「NHK教育フェア」は、日本放送協会が教育番組関連企画を中心に例年実施している行事であり、公開集録や屋内外の展示のほか、食や農業に関連する団体の出展などもあるが、本年は社会福祉に関する大学等の企画展示を充実したいとの考えがあり、本学にも本年8月に打診があった。
 武蔵野美術大学美術と福祉プログラムは、1998年4月から既に11期1000名をこえる本学教職課程学生が参加し、2006(平成18)年度「特色ある大学教育支援プログラム」(特色GP)に文部科学省より選定されてその成果の公開につとめているが、報道機関と直接に連携して市民参加の形態で実施したことはなかった。
 本学では「とくに教育フェア2008」と連動する「NHK歳末・海外たすけあい」の趣旨を確認して、武蔵野美術大学「美術と福祉プログラム」の成果を公開するための大切なチャンスと考え、参加型のワークショップを展開して「NHK歳末・海外たすけあい」の成功を目指すというプランをもってNHK教育フェア担当者のとの話し合いを進めた。
 なお、今回の企画は本学が予め2008(平成20)年度の「特色ある大学教育支援プログラム」の計画として文部科学省に申請したものではない。このため、基本は本学の費用負担とし、ワークショップの材料費や学生交通費、設営作業などについて日本放送協会から貴重な援助を受けた。

2 ワークショップ企画の内容
 企画内容については、あらかじめ教職課程研究室、とくに担当する3名の講師に打診し、最終的には葉山登講師の提案による「人を思う心が集まるよ―いろいろ色のフェルト・タピストリー」を実施することとなった。これは「NHK歳末・海外たすけあい」のテーマである「人を思う心」や今回会場Dゾーンのコンセプト「ハートプロジェクト」を前提に、フェルトを帆布に貼付する手法にあったわかりやすいネーミングとして考えたものである。参加者が共同制作した作品は、「NHK歳末・海外たすけあい」の飾り付けに活用することとした。
 実施プランとしては、野外のテント内の1つの机(参加者4〜6名)に1人のファシリテータが担当して説明などにあたる形態である。着色された原毛を重ねて形作り、手でていねいに毛を絡めた後に、石けん水で固め、タオルで拭き取り、さらに形を整えて木工用ボンドで帆布に貼付する。説明を含めて、小学校児童で15〜30分の作業を予定した。
 物資としては、2メートルの帆布には50人分のフェルトが貼付すると計画して、各日5枚、合計15枚を最大限として準備した。また作業場所としての机(上面に防水用のビニールカバー)、フェルト添付作業用の帆布置き場としての45度傾斜の板3枚などは日本放送協会に設営を依頼した。

3 展示企画について
 武蔵野美術大学「美術と福祉プログラム」そのものを説明してアピールするために、2007(平成19)年度展示会(第10期)に使用した学生制作パネルなどを会場に33枚展示する計画となった。会場のテント3つの背面にボードを設営してもらい、ここに展示する計画であった。短期間の準備しかできないことと、実際の学生による「記録と表現」の成果を示すという考えから、あえて昨年度学生のパネルの展示がふさわしいと判断したものである。なお、この展示については後述のとおり天候により断念をした。
またあわせて、看板やパンフレットB5判カラー4頁を作成した。

4 実施状況
 2008年11月1日(土)、2日(日)、3日(祝)の3日間、10時から16時30分まで、NHK放送センター周辺の「Dゾーン」でテント3つを使用して実施した。
 初日の設営段階で会場に強い風が吹いたが展示物を設営した。しかし、12時には展示ボードの使用が困難と判断され、撤去せざるを得なかった。このため、展示物としてはパネル3枚のみとした。この場所にビル風が起こることは予め説明を受けており、また日本放送協会は充分に安全に配慮した設営をしていたが、当日の風は烈しく、とくにボードがテント全体の倒壊の危険を増していると判断された。
 このため、実際にスタートしたのは初日の午後からであり、また当初の予定と異なりワークショップ企画を中心とするものになった。1日5枚の制作で計画した帆布であるが、1日目は3枚しか完成しなかった。  しかしその後の参加者は予想と比して多く、2日目に8枚、3日目に14枚が完成した。  NHK教育フェアはあらゆる年齢層を対象としているが、実際には子どもにアピールする着ぐるみなどのキャラクターを中心としたパフォーマンスが屋外舞台の中心となっており、小学校低学年以下の子どもと保護者という家族連れが多数である。このため、参加者は小学校低学年の男女の児童であり、これに両親が加わる形である。もちろん、中高生や一般成人、高齢者の参加もあった。なお、希望者が多い時間帯では、児童の参加を優先して保護者には見守ることにしていただいた。なお、一人当たりの作業時間は、20分程度であった。
 このワークショップのファシリテータには、葉山登クラスの学生と資料閲覧室のスタッフがあたった。事前に学内で打合せをして企画段階から参加したが、実際の会場の参加者との対応は予測不可能で、その場での臨機応変の対応に委ねられた。予想を超えたのは、希望者が座席数よりも多く出たことで、当初はファシリテータも椅子に座って1〜3名との対話型の共同作業の形態をとったが、3日目には椅子に8名ほどの子どもたちが座ってファシリテータが全員に作業を説明するという教室スタイルの形態へと自然と移行した。こうした臨機応変の対応がファシリテータには求められるものであり、今回の経験は非常に貴重なものである。
 なおワークショップ参加者は700名と推定されるが実地にカウントした数字ではない。作品に貼付されたフェルトの概数から14作品それぞれに50名として計算したものであるが、実際には直接作成しなかった保護者や、作品に愛着を持って持ち帰りを希望した子どもたちも多いために貼付数に入らない参加者も少なくない。また見本作品をスタッフも作成したので、これらを加減して700名と推定するものである。
本企画に当たった者は次のとおりである。

取組責任者     教授・高橋 陽一
ワークショップ指導 講師・葉山 登 川村学園女子大学教育学部幼児教育学科准教授
スタッフ      嘱託・吉岡 美樹
          嘱託・赤羽 麻希
          スタッフ・石田 明子
院生スタッフ    田中千賀子 博士後期課程環境形成領域
学生スタッフ    山畑 芙美 視覚伝達デザイン学科4年(あさやけ作業所A班)
          藤岡 楓  空間演出デザイン学科4年(あさやけ作業所A班)
          平田英莉奈 芸術文化学科2年(あさやけ作業所A班)

5 まとめ
 今回の企画は、「美術と福祉プログラム」の成果公開という着想からスタートし、造形ワークショップの楽しさをアピールして子どもたちの参加を求めて、約700名の参加を得たものである。直接的ではないが、共同制作のプロセスを体験することで、社会福祉や助け合いということについて考える契機としての意義を持った。共同制作した作品は、11月30日(日)に表参道ヒルズで実施される日本放送協会の企画をはじめとして「NHK歳末・海外たすけあい」で実際の活用がなされる予定である。
 企画としての制約は、参加人数が予想不可能であること、風雨などの影響を受けやすい屋外会場であることなど様々であったが、実際に運営に当たった学生やスタッフにとっては臨機応変に造形ワークショップを実施するというよい経験となった。
 今回の企画にあたっては、日本放送協会の方々には企画から会場設営までご尽力を頂いた。とくに、最初に企画の打診を下さった山本佳代氏、実際の企画運営にあたって大変なご尽力を下さった遠藤寿彦氏に心より御礼を申しあげたい。