2008.11.22(sat)
公開シンポジウム「竹の造形・その未来」7

今、お聞かせしている音楽はコンピューターで生成した黄金比の音色を黄金比の音階に乗せ、黄金比のリズムで演奏させたものです。きわめて人工的な音楽であるにもかかわらず、意外と違和感なく聞けるのではないでしょうか。
この2週間の間、大学内で毎日学生達と繰り返し演奏していた「フィボナッチ・ケチャック」は、屋外に展示してある作品の残りの竹で楽器をつくって演奏しています。一人一人が楽器を制作し、フィボナッチ格子に基づいた「タタケタケ」を基本とするリズムをそれぞれのパートに分かれ叩いてもらいました。民俗音楽のように聞こえるかもしれませんが、まだ世界のどこにもありません。音が鳴るものであれば何でも楽器になり、誰でも楽しめる音楽です。
1990年に、ペンローズ・タイル、フィボナッチ数列、黄金比のそれまでの研究を総動員した建築作品を発表しています。それはシュタイナーに敬意を表して「第3ゲーテアヌム」と名付けました。全て五角形でできており、迷路構造になっており、ペンローズ・タイルが下敷きになっています。この図面を設計中にたまたま、先ほどの「五勾」が生まれたのです。
他の作品も写真とともに紹介したいと思います。

(年代毎に数々の作品をコンセプト、エピソードなどとともに、また海外の竹の取り組みなども交えて紹介)

コロンビアの作家であるシモン・ベレスの竹の作品は、全て竹でつくられています。世界で一番前衛的な竹の取り組みをしているのはコロンビアかもしれません。日本には古くから成熟した竹の文化がありますが、今やコロンビアなどで最も最先端の取り組みがなされている状況があるのです。その理由は、情報を外に出したがらない、日本特有の権威主義にあるように思います。現在欧米で竹への関心は非常に高いのですが、世界各地で「日本は竹に関する情報を、もっと出せ」と言われます。対して竹の伝統のないコロンビアで、新しい取り組みが次々になされるのは、いわば「玄人主義の罠」とでも言える見本かも知れません。何も知らない素人の方が、これまでにない新しいことのできる好例だと思います。
これまでお見せしてきた円錐のタワーとは別に、懸垂線を用いた建築を作りたいと思いました。というのもガウディの建築を見に行ったところ、彼の建築の地下や屋上には、至る所で懸垂線が使用されていたのです。そこで、大阪の成蹊大学において制作したのが8mの「サンフラワー・タワー・懸垂線」です。

懸垂線の安定性とフィボナッチ葉序の柔軟性があいまった建築になっています。以降、孟宗竹を用いて茶室をつくりはじめました。にじり口を用意し、中に囲炉裏を切り、自在鉤を吊るしましたので鍋もできますし、コーヒーも飲めます。日本だけでなく海外でもつくっています。また、茶室内でフィボナッチ・ケチャックを演奏し、録音も行いました。今も武蔵野美術大学10号館1階に茶室を制作し、設置しています。僕は毎日この茶室内で生活を営んでいるようなものです。夜は星を眺め、月を眺めます。松ぼっくり5個でコーヒー1杯をわかし、コーヒーに映った松ぼっくりと同じ屋根の構造を眺めながら飲み干します。

最近知ったのですが、この「サンフラワー・タワー」と同じ構造がアフリカの高山帯に存在していました。ジャイアント・ロベリアという植物です。内部に幹はなく空洞になっているそうです。表面は「サンフラワー・タワー」と全く同じ構造で葉が重なり合っています。人間が考えることなど、とうの昔に自然が実現している良い例です。人間は反自然と言われがちですが、実は人間の思考は「自然」とそう遠くはなく、逆の見方をすれば、自然界も何らかのかたちで「考えている」とみなしていいのではないか、というのが僕の考えです。最近作成したものに、相似三角形で構成される植物の葉序パターンというものがありますが、これも驚いたことに大根の葉を水平に切ると現れる構造なのです。
「サンフラワー・タワー」を横に寝かせたものが、現在武蔵野美術大学10号館前芝生にて展示してある「フィボナッチ・トンネル」です。孟宗竹で制作していますが、これと同様の試みを布施知子さんの「ねじれ多重塔」を参考に折り紙でも制作しています。
今後の課題ですが、次は竹を用いて逆円錐の建築をつくりたいと考えています。この利点は雨水を集めることができる点にあります。現在、どこの家にも樋がありますが、僕は疑問を持っています。以前のように雨水を集めて利用することはなくなったにもかかわらず、相変わらず多くの家に樋はつくられています。日本人の特性なのかもしれませんが、本来の目的が失われてもなお、延々とつくり続け、むやみに洗練させていきます。せっかく樋で集めることのできる雨水を利用せずに下水へ垂れ流し、その一方で水道水を道に撒いてクールビズだのエコだのと叫ぶのはいかがなものでしょうか。
逆円錐の屋根構造であれば樋が不要となり、中央の1カ所に雨水を集めることができます。そのような視点で自然を観察すると、多くの樹木が似たような構造で自らの根元に雨水を集めていることがわかります。
このように工学的発明を重ねていくと、あらためて自然界の知恵に気付かされることが多々あります。発明品が人間の認識の解像度を高めるといっても過言ではないでしょう。
以上で講演を終了いたします。ご清聴有り難うございました。

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